台湾にはA-meiもJolinもいるけど、Björkみたいなスターはまだいないー9m88インタビュー

 

この記事は、台湾の現地メディア、Fresh Musicに2020年7月26日に掲載された「我們有了阿妹有了Jolin,但還沒有像Björk的Star — 專訪9m88」を許可を得て翻訳したものです。記載されている情報はすべて当時の情報に基づきます。

 

9m88は、台湾大手カラオケチェーン店「好楽迪」が主催するカラオケコンテストに参加したことがあり、審査員はSweety(*)だった。

 

9m88 インタビュー

BY:老黃瓜  | 写真: 方塊雲吞 + 9m88 Facebook  | 感謝: Cross Ratio Entertainment

 

*注:Sweetyとは、台湾を中心に中華圏の芸能界で活躍する女性歌手グループ。

 

去年の中国語音楽シーンのスーパー新人は9m88で間違いない。ソロアルバムが発行される前から、Leo 王との「あなたの休日に付き合う(原題:陪妳過假日)」を含め、異郷人との「SWAG昼寝(原題:SWAG午覺)」、呉青峰の「Everybody woohoo」、ØZI「B.O.」、蛋堡の「台北ヒップホップ物語(原題:台北嘻哈故事)」などのフィーチャリング作品があり、9m88に対する期待値はすでに最大に到達している。彼女のライブはほとんど売り切れで、鮮やかなミュージックビデオと個性の魅力はすでに、教祖レベルだ。

 

9m88は誠実で率直である人なので、このインタビューもストレートな聞き方で、これまで経験したことだけではなく、他者が彼女に抱いた疑問も並べ、本人はどう考えたかも明らかにした。彼女の落ち着いた返答から、私が見たのは:A Star Is Born

 

ーーファーストアルバムは、制作と編曲をほとんど自分でやるというプレッシャーがあったようですね。どうしてこのやり方を選んだのですか?

 

9m88:適切なプロデューサー、適切なA&R、適切な歌を探してくれる人を見つけるのは簡単ではないですから。時間をかけてリソースを探し続けるより、自分でやってみようと思っていました。だって皆さんが期待してくれて、注目を浴びるようになってから二、三年間経っていたのに、なかなか自分の作品を出すことができなくて、私もかなり焦っていましたから。

 

やり始めた後に、たくさんのことを並行してやらないといけないし、難しいことにもぶつかりました。プロデューサーを探して協力してもらえて、たくさんの人に助けられて、とても感動しました。

 

ーーあなたにとって、一番難しいのはどこでしたか?

 

9m88:一番難しいのは、歌手のマインドセットから、プロデューサーのマインドセットに変換すること。プロデューサーのマインドセットの役割はミュージシャンやマネージャーとコミュニケーションをとることで、たくさんのこと、たくさんの会話をして、音楽以外のことをどうやって進めるか、ちゃんとしたプロセスを推進し、たくさんの細かい調整をしなければなりません。

 

それからミキシングの時は、創作段階と違って、耳をフラットにして聴くことが求められます。私のボーカルを一番目立つところに置くことではなく、音楽のどの部分を目立たさせるか、この考え方はどんどん変わるようになりました。また、マスタリングの時も違って、たくさんの先生や先輩から新しい考え方をもらいました。このプロセスを経て私の耳は前より開いた気がしました。

 

ーーたくさんの人から質問されたと思うけど、アルバムの名前はなぜ「平凡以上(原題:平庸之上)」なの?

 

9m88:たくさんの人は、初めてのアルバムに「誰々の初めてのアルバム」と名付けると思うんだけど、私は、自分に近い名前が欲しかったのです。「平凡以上」という曲を書く前に、このアルバムを「平凡以上」という名前にすることはもう決めていました。私の二十代がそろそろ終わるという気持ちを表しました。私は、早く突き抜けた存在になりたかったけれど、複雑でもがくこともあり、越えたくても越えられない気持ちがありました。

 

そんな自分を慰めるために、私と同い歳の人も歳上か歳下の人も、全ての人が自分の平凡以上を探し続けているから、このタイトルで、自分を制限しないことと、もし突破しても、60点以上で合格しても、もっと向上できる余地があることを伝えたかったのです。

 

「凡庸」というのは、「I am the best」でも「I am the worst」でもない、大きな可能性を秘めた言葉だと思うんです。

 

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私は音楽を聴くとき、とてもリラックスしていますが、自分のやりたいことを追求する時には、自分を疑ってしまうのです。多くの人が、私と同じように感じているでしょう。気になるところやはっきりしないことがあっても、このあいまいさを口にする人は多くなく、たいてい私が困っているか興奮しているのです。でも、私はこのグレーゾーンが好きです。

 

9m88と好楽迪とオーディション番組「超級星光大道」

 

ーーかつてオーディション番組に参加することは、デビューする唯一の方法で、多くの歌手はコンテストに参加していました。これまでそういうコンテストに参加したことはありますか?

 

9m88:ありますよ!最初の2,3回ぐらいは学校で、1回は中学の時、好楽迪のカラオケコンテストです。そしてとても面白かったのは、そのコンテストのプレゼンターはSweetyの、言言と喬喬でした。私は今この業界で働いて、2人に会ったときに、とても面白いと思って彼女たちにこう言ったんです:「Hey、知っていますか?私の初めて参加した正式な歌のコンテストであなたたちはステージの下にいたのよ」。実はあの時、彼女たちはとても若く、15歳か16歳でした。

 

その時私はとても緊張していたけれど、お母さんが私を連れて行ってくれたことにとても喜んでいました。なぜならお母さんは私をコンテストに参加してほしくないと思っていて、スターの夢を持たず、ちゃんと勉強した方がいいと言われていたからです。しかし、その時のコンテストで私が気づいたのは、プロの歌手になるまで、私はたくさんの課題があることで、私には一体プロになれる素質があるか、自問自答していました。

 

テレビ番組では、オーディション番組「超級星光大道」に参加したことがあります。その時の番組はとても人気で、私も参加しに行ったけど、結局続きませんでした。その時はすでに大学に通っており、自分が何をやりたいかはわかっていたですけど、こんな形で夢を叶えたいとは思っていなかったですから、参加し続けるのをやめました。新しいやり方を探そうと思っていました。

 

ーーあなたが「超級星光大道」に参加したことあるなんて!どんな感じだったかを覚えていますか?

 

9m88:オーディション行ったら、スタジオに入って撮影することになったんだけど、逃げてたい気持ちになったのを覚えていますよ。当時はとても臆病で、緊張していました。モニターの前で皆さんに詳しく見られることは、とてもプレッシャーでした!

 

アルバムをリリースした後に、音楽バラエティー番組「聲林之王」に先生として参加していたんですけど、実はとても感動しました。10時間以内に全ての課題を完成させることに対する参加者たちのプレッシャーへの耐性が強いのを見て、とても素晴らしいと思いました。

 

もし私が昔オーディション番組「超級星光大道」に参加したとしたら、トップ5までいけなかったと思います。コンテストに参加する観客たちに見られる資質が必要となり、それらはスタイリッシュか、自分の考え方を持つということとは、違うアプローチだと思います。

 

あの時の歌唱力と考え方では、おそらくトップ5になることは可能ではなかったと思います。もしトップ5ではなく、もっと悪い順位だったら、レコード会社と契約を結べたとしても多分凍結されていたでしょうね、ハハハ。たくさんの参加者にとって、出演したときには人気で熱い視線が注がれても、番組が終わってから成功するのはほんのわずかというのが現実です。

 

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ソーシャルメディアの時代で、スターの定義も変わり続ける。

 

去年の11月、ジョリン・ツァイやレイニー・ヤンのマネージャーとして有名な蒋哥(蔣承縉)は、とあるインタビューで9m88のことを話していた。彼はその時に、台湾の今の流行音楽マーケット、セグメントマーケティングの問題について述べた。

 

例えば、9m88は3000人規模のコンサートを3回開けるが、もっと上に行こうとしたらどうなるの?行けない。なぜなのか?彼女のオーディエンスしか持っていないから。リソースがあるマネージメント会社かレコード会社が彼女を宣伝すれば、メインストリームに行けるはず。

 

これは台湾の新しい世代の若者たちが人気があるのに大成できない原因である。彼らは自分の主張が強すぎるし、このままでいいと満足している。9m88、Leo王は多分「最高品質靜悄悄」がすでにかっこいいと思っているだろうから、なんでもっとプロのパッケージが必要なの?と思うはず。これは正しいか正しくないというのはない、私から見ると、今は、KKBOXでナンバーワンになっても、それはメインストリームではない。昔我々が言ってたナンバーワンが、全ての人がこの歌に詳しいということは、今はあり得ない。

 

このインタビューで語られたことをもとに、9m88にスターの育成について聞いた。

 

ーー蔣哥のコメントにどう感じたかを聞かせてください。リソースのあるマネジメント会社からのサポートが本当に必要?

 

9m88:昔、音楽プラットフォームでのリスニングセッションで、「なんでこのような音楽を作るか」「他の人とのフィーチャリングで、もっと人気な音楽を作りたいのか」「なんであれこれ試してみたの?」「何になりたいの?」と聞かれていました。

 

少し考えてみたら、私は阿妹になりたかった、その結果に至るまでにどういう道を歩むかだけの話なんです。言い換えると、台湾のマーケットには阿妹、Jolinとかのスターはもういるけど、Björkみたいなスターはまだいない。そのようなスタイルになりたい、自分なりに好きなやり方で努力をし続けます。

 

今はソーシャルメディアの時代で、これまでのスターの見え方が変わっていて、多様なスタイルがあってもいい時代になりましたね。完璧な人間にはなれないですけど​、​リアルで自分の考え方があれば、評価してもらえるんです。

 

このような形で発展していけば、新しい道が開かれます。中華圏じゃないところ、例えば、日本、韓国、最終的には英語ができる欧米の国に聴いてもらえるよう、たくさんの努力が必要です。これは中華圏のスター作りの考え方と大きく異なります。

 

一方、リソースとA&Rを強化することで、もっと目標を達成しやすくなることはある意味賛成です。私の役割として、適切なA&Rを持つことは重要ですが、スーパースターを生み出すことに成功した人を探し、その成功体験を私に置き換えることはできないはず。 個性が違うから、表現が違うから、それは不向きだと思います。昔のスターにはロールモデルあるかもしれないですが、Leo王や私に通じるアプローチが自己表現と自己実現は、世間のためのスターとは違うと思います。この考えを理解してくれるパートナーを探すために時間がかかるはず。

 

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フィーチャリング女王の爆誕と期待値とのギャップ

 

ーーあなたはフィーチャリング作品がとても多いのですが、それぞれのコラボレーションのきっかけを教えてください。

 

9m88:それは不思議で、私はLeo王の音楽が好きで、コラボレーションしたかったので、共通の友達を通じて連絡を取りました。中華圏で私のような中低音ボーカルの女性は少し特別で、このスタイルはあの時にそんなに多くないと言われるようになったのは意外でした。

 

その後、たくさんの人からコラボレーションの誘いを頂くようになりました。異鄉人、馬念先,吳青峰からも声をかけてもらいました。実はもっと多くのオファーを頂いたけど、彼らからスタイルや創作の方法など学べることが多かったので、ぜひ一緒に仕事をしたいと思いました。

 

ーーフィーチャリングの作品で皆さんの期待値が上がった分、音楽業界の人を含めて、あなたのファーストアルバムに対して「ちょっと違うんじゃないか」と思った人もいると言われていますよね。

 

9m88:それは同感です。最初に言ったように、初めてのアルバムは相応しいプロデューサーとパートナー見つけられなかった。確かに、マーケット的には、出来が良いアルバムではないけど、私にとっては私の創作のアウトプットと経歴から言うと、とても良いスタートが切れたと思います。私はこれからいろんなスタイルに挑戦できると思います。少し遠くから見ると、この作品を作ったことで満たされ、目標も達成したと思います。

 

13回目のFreshmusic Awardsで、9m88は最優秀新人賞にノミネートされました。成績は今晩の7月31日の10時にFreshmusic音楽雑誌のFacebookとYoutubeにビデオで発表される予定です。

 

翻訳:A-日本在住の台湾人。Twitter: taiwanmusic2 / IG:playasong95

編集:中村めぐみ