どうもタピレコの中の人です。
今日は「台湾の音楽以前に台湾の文化が全然日本の音楽/メディア業界に浸透しない問題」について、私の考えをお伝えしますね。
日本で発信される台湾の音楽情報が、令和の今もバグり続けている問題。
「日本で発信される台湾の音楽情報」は、基本的に年数回のバグを伴った状態で発信されます。
バグにはいくつか種類があって、
- 一般人が間違った情報をSNSやブログで語ってしまい、それをがなんとなく広まってしまう
- プロフェッショナル(それでご飯食べてる人)が間違った情報を公式情報として流してしまう
- 台湾から発信される日本語の記事がいまいち
ざっくりこの3パターン。
大きな問題になりがちなのは2ですね。
最近では、JJ LINとアン・マリー(Anne-Marie)のコラボ曲「Bedroom/ベッドルーム」の情報公開で、プレスキットの冒頭が超やらかしていたことで、プチ炎上を招いていました。
最も偉大なマンドポップ(台湾語・原住民語ポップスの総称)アーティストの一人であるJJ Linと、
マンドポップは標準北京語で歌われるポップスの総称であって、台湾語、原住民語ポップスとは別のものですね。
かといって、このPointedというサイトが悪なのかというとそうでもなくて。元をたどると、リリース元のワーナーによるプレスリリースが間違えており、それを受けたメディアも誤った情報を配信していた、という状況のようです。
ちなみに、音楽メディアに載る記事は2つあります。
(1)プレスリリースをもとにした情報。
(2)独自に取材、執筆した情報。
(1)の場合、裏取りが行われない場合もあります。特に人手不足の音楽メディアはそう。(基本的にリリース情報以上の情報は載せない)
なので一定仕方がないのですよ……。
今回に限った話じゃない
いったんJJ LINのケースを取り上げましたが、こうした問題は、いまにはじまった問題ではありません。
たとえば、
2018年 CINRA 落日飛車「アジアンオリエンテッドロック問題」
これは2018年に発行された紙媒体の一部です。おそらく台湾政府系のイベント会社かメディアからCINRAに発注されたもので、10Pほどの小冊子(フリーペーパー)でした。
落日飛車の紹介ページで、
彼らの音楽性はAOR(アジアン・オリエンテッド・ロック)と呼ばれ…
ここ、アダルト・オリエンテッド・ロックなのでもはや台湾以前のミスなのですが、校正されないまま発行されてます。台湾だからアジアンになったのか…?
2018年 しゅうけつりん問題
某テレビ番組で、中華圏のスーパースター周杰倫(ジェイチョウ)と「七里香」が紹介された…のですが、「中国の福山雅治」だったり、名前のルビが「しゅうけつりん」だったり、突っ込みどころ満載だとして、派手に炎上した事件。
ちなみに当時、本件についてジェイの事務所にインタビューを申し込みましたが断られました。(取れていたら私は台湾音楽マーケットで出世していたかもしれませんw)
まー、全体的に、七里香大好きだからちょっと悲しかったぞ。
上記3ケースをお伝えしましたが、掘っていくとだんだん悲しくなっていくから一旦ここで。
何が原因なのか
で、これらの根本を探っていくと、2つの原因があると思っています。
それは
音楽メディア・レーベルの担当者へ教育がされていないこと
音楽メディア・レーベルに熱意の高い人材が不足していること
一般的に、台湾音楽関連のプロモーションには2つの段階があります。
(1)プロモーションに必要な情報がきちんと整理されている段階
(2)その情報が熱意をもって最大限展開されている段階
台湾の音楽を広めようとする場合、まずは(1)がポイントとなります。
そもそも、台湾のポップスを扱う場合には、中国語の成り立ちに対する知識が必要です。とはいえ難しく考える必要はありません。
「中国語の標準語は北京語で、文字の形式は簡体字と繁体字で、中国は簡体字、台湾/香港では繁体字。台湾のポップスは基本的に、標準北京語をベースにした台湾華語で歌われていて、歌詞は繁体字だよ。ちなみに台湾語は方言で、台湾華語とは別の言語だから気を付けようね」というレベルで良いです。
この教育が施されていないのは、偉い人に教育する気がないからです。そしてそれは、台湾の音楽が日本で収益性が低いことが原因です。
教育がされていない場合、自力でググるなり調べるしかないのですが、それは担当者の熱意ドリブンになります。
たとえば冒頭でお伝えしたJJ LIN案件では、「マンドポップ」が何かっていうのはちょっとググればわかる話なんですよね、私も記事書いてるし。
ただ、本国からリリース原文がデリバリーされるのが遅い場合、ファクトチェックがされないままリリースがされてしまう…という事象がいたるところで起きています。
レーベルのPR担当者って結局サラリーマンなので、スキルの高い人材もいればスキルの低い人材もいる。スキルの高い人材が、ミスすることだってある。
どういう形であれ、不幸な露出というのはそうやって生まれます。
※ちなみに、台湾に愛情を持って正確な情報の発信に努められている音楽関係者の方もいます。ただ、必ずしも大手レーベルに在籍しているとは限りませんし、リソース不足の場合もあります。こうした場合、情報を発信したとしても影響が限定的です。
ちなみに(1)(2)を何とかするためには、K-POPのように本国からリソースを投入してもらうのが有効なのですが、中途半端にやるとCINRA事件のようになるので、やり方には工夫が必要です。
私が危惧していること
こうした流れの中で、私が一番リスクだと思っているのは、間違った情報が流れてしまうのはもちろんですが、メディア/レーベルがやる気をなくしてしまうことです。
メディア、レーベルにとって、台湾の音楽コンテンツは、収益性が低いものです。良い事業に育てていくためには、担当者のモチベーションで実績を上げ、より大きな資本が投入されることが重要です。
しかし、ミスに対しファンがあまりにも表立って糾弾しすぎると、「台湾音楽のファンダムやばいから触れないでおこう…」という判断が下されることもあるかと思います。
先方も仕事でサラリーマンで、上司は部下を守る決断をしなければいけません。収益性が高いコンテンツを扱うのであればともかく、収益性が低いもので、ファンベースとトラブルが起きて面倒ごとの予感を察知した場合には「さくっと手を引く」、という判断を私ならします。
本件とは少し話がそれますが、KKBOXで、2019年に日本で行われた音楽イベントについて、台湾の方が書かれた日本語の記事が掲載されました。
その際Twitterでは、日本語が稚拙だとして、古株の方を中心に大バッシングが起きていました。以来KKBOXでは、台湾の方による日本語の記事が掲載されていません。
その古株の方と私は直接かかわりはないのですが、台湾の音楽業界とつながりがあるようでした。
表立って叩かなければ、裏で手を回せば、自分の仕事にもつながったかもしれない。もっと発信が増えていたかもしれない。
この責任はだれがとるんだろうね。
私個人的にも、本業の傍ら仕事として台湾の音楽に関わることもあります。しかし、一部のアーティストについては「頼まれても書かない」と決めています。だって実際にファンと絡むなかで嫌な思いをしてきたし、嫌な思いしたくないもん。音楽は好きだけどね。
じゃあなんでお前やらないの?
ここまでお読みになって、私のことをある程度知っている方は、「一定知識があって影響力も少しはありそうな中村が変えていけばいいじゃん」と思われるかもしれません。
でも、私は、本業(IT/Webの仕事)が好きで、様々な条件を考えた結果、今後15年くらいはIT業界にいつづけたいと思っているのです。
だから、レーベルに就職するとか、メディアを本業にする、みたいなのは考えておりません。
ただ、状況を変えようとしていないわけではありません。
私は台湾の音楽を広めようとすることで、自分の人生を開いてきました。今私が持ち味としている行動力とアイディアは、台湾と関わる中で、培ってきたものです。
だから、少しずつ恩を返していきたい、と思っています。
具体的には近々、日本の音楽/メディアにおけるリテラシーについて、台湾の人に話ができるかも…かもです…今対話の機会を設けようと頑張ってます…
前向きな改善アイディアがある方は、私のTwitterまでご連絡をください。
それではまた。