ライブレポート:Bugs of Phonon 聲子蟲、轟音が描いた非言語と共感の体験(SYNCHRONICITY’26)

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Photo by エドソウタ

 

都市型フェス「SYNCHRONICITY’26」の夜は、単なる賑わいとは少し異なる密度を帯びていた。複数のライブハウスを横断する人の流れ、外に漏れ出る低音、多国籍の人びとが階段や通路で交わす断片的な会話。そのすべてが混ざり合いながら、都市の中に一時的な“音楽の地層”を生み出していく。

 

そのなかで、ひときわ異なる時間の流れを作り出していたのが、4月12日(日)にSpotify O-EAST 2nd Stageに登場した、台湾のポストロック・バンドBugs of Phonon 聲子蟲だった。


2008年に台湾・台南市で結成されたBugs of Phononは、台湾ポストロック・シーンの中核を担ってきた存在だ。メンバーであるChi-Ming, KO(ギター)、Lu-Ming LU(ギター)、Hsin-Feng, CHIU(ベース)、Wei-Chun, GAN(ドラム)の4人に、プロデューサーであるFred WENがシンセサイザーでサポートという構成で、この日のライブは行われた。

 

MONOやGodspeed You! Black Emperor、Sugar Plum Ferry 甜梅號といった台湾内外のポストロックに加え、さらにはNine Inch Nailsのようなインダストリアルなサウンド、My Bloody Valentineといったシューゲイズまで、多様な音楽的ルーツを背景に持つ。

 

作曲の中心を担うChi-Mingは「身の回りで起きた出来事や、社会的な出来事に影響を受けることが多い」と語る。そこに映画音楽の作曲家でもあるLu-Mingがアレンジを加え、プロデューサーのFredがライブでの音響設計を担い、現在のバンドサウンドが形作られている。

 

左から、盧律銘 Lu-Ming LU(ギター)、邱新峯 Hsin-Feng, CHIU(ベース)、甘偉均 Wei-Chun, GAN(ドラム) 、聞理  Fred Wen(サポート / シンセサイザー)、柯志明 Chi-Ming, KO(ギター)

 

日本初公演となるライブは、「Burning 燃燒的字」から始まった。暗転のなか、彼らの持ち味であるギターの轟音とノイズが空気を震わせ、ほぼ満員の空間が引き込まれていく。この楽曲は、台湾社会に渦巻く怒りや緊張感、そして、時に事実よりも感情を煽ることになりがちな台湾メディアのあり方への批評性を内包しているという。


だがその怒りは、暴力的に表現されるのではなく、あくまで音の揺らぎや構造の中に溶け込み、ベース、ドラムが生み出す爆発と相まって、幾層にも折り重なるように密度を増していく。そして、身体に直接作用する“振動”へと変わる。

 

甘偉均 Wei-Chun, GAN(ドラム) 

 

観客はその変化を明確に認識するわけではない。ただ、10分を超える長尺にもかかわらず、気づけば内部に引き込まれている。1曲目を終えた時の歓声は、既にBugs of Phononが生み出す内面的な感情が、国境を越え、日本のライブハウスに集った観客に直接届きはじめているーーそんな予感を感じさせた。

 

続く「Send to Stars  送往繁星」では、空気が一転する。活動初期に作曲されたこの楽曲は、“星を見て未来を望む”というイメージから生まれたという。先ほどの轟音と打って変わって、温かみのある音色のシンセサイザーとギターのメロディが静かに絡み合う。静けさは単なる休符ではなく、次の展開を待つ緊張の時間として存在している。ドラムがゆっくりと加わり、リズムが輪郭を持ちはじめると、空気は少しずつ温度を帯びていく。

 

柯志明 Chi-Ming, KO(ギター)

 

音と音のあいだにある“余白”が、これほど豊かに感じられる瞬間はそう多くない。照明は一貫して最低限で、過度な演出も、MCもない。こうしたところからも、キャリアの長さから来る自信や矜持を感じさせた。

 

中盤以降、セットはよりドラマティックな局面へと移行していく。「Long Haul 遺心病」で顕著だったのは、蓄積と解放のコントラストだ。この楽曲は、メンバーが家族の病と向き合う過程で生まれたものである。終わりが見えない闘病の時間を象徴するように反復されるギターのフレーズは、わずかなニュアンスの違いによって空間に陰影を生み出していく。長い時間をかけて感情を整理していくプロセスが、そのまま音の構造として現れている。


抑制されていたエネルギーが徐々に輪郭を持ち、解放される。足元から伝わる低音、胸の奥を震わせる音圧。観客はそれを“聴く”というより、その中に存在していた。

 

ギター2本の関係性も、この体験を支える重要な要素だ。メインのメロディは主に作曲を担当するChi-Mingが担い、Lu-Mingは全体の構造を見据えながら、低域や周波数帯を補完していく。単なる役割分担ではなく、音の“層”を構築するための設計と言えるだろう。

 


そしてラストの「Impressionism 印象派」。このタイトルが示す通り、彼らの音楽は絵画の印象派的なアプローチに近い。明確な輪郭を描くのではなく、断片的な印象を重ねることで全体像を形作る。祝祭のように空間に響くトランペットのメロディ、そしてドラム、ギター、ベースが積み重なると、すべての要素が一気に解き放たれ、まるで映画のエンディングのようなカタルシスが、その場に満ちていた。

 

ライブ前の取材では、「圧倒的な音の体験を通じて、感動や衝撃を届けたい」と語っていた。彼らにとって重要なのは、場を圧巻する轟音そのもの、そして轟音があるからこそのダイナミクスだという。

 

演奏が終わりに近づくことを悟ると、会場のあちこちから割れんばかりの拍手、そして序盤よりも遥かに大きくなった歓声が空間に広がった。轟音に圧倒されながらも、そこには、共感が確かに存在していた。

 

 

なぜ今、このバンドが日本のライブハウスで響くのか。その理由は、彼らの音楽が持つ非言語的な強度にあるのかもしれない。今回演奏された4曲に込められた感情や背景ーー社会への怒り、星を眺める気持ち、病と過ごす時間、断片的なイメージの感覚……インストゥルメンタルであるからこそ、文化や背景を越えて、聴き手それぞれの内側にある原風景を呼び起こす。共通の物語を与えられるのではなく、むしろ個々の記憶や感情に触れる“余白”だ。

 

初の日本公演という挑戦について、Bugs of Phononは「MCも自己紹介も一切しない自分たちにとって、30分という限られた時間の中で観客とどう繋がれるかは大きな挑戦だった」と振り返る。そのうえで、「演奏後の歓声は想像を遥かに超えるもので、大きな驚きと自信になった。また日本に戻ってくるのが楽しみです」と、その手応えを語った。

 

今回の「SYNCHRONICITY’26」でのパフォーマンスは、彼らにとって日本での重要な一歩となったはずだ。しかし同時に、それは通過点に過ぎないとも感じられた。

 

これから先、彼らの音がどのように広がり、どのような風景を描いていくのか。その続きを、ぜひ見届けたいと思う。

 

この場で触れた“音の記憶”が、身体のどこかに残り続けている。

 

■セットリスト
1.Burning 燃燒的字
2.Send to Stars 送往繁星
3.Long Haul 遺心病
4.Impressionism 印象派

 

■Bugs of Phononメンバー
柯志明 Chi-Ming, KO(ギター)
盧律銘 Lu-Ming LU(ギター)
邱新峯 Hsin-Feng, CHIU(ベース)
甘偉均 Wei-Chun, GAN(ドラム) 
聞理  Fred Wen(サポート / シンセサイザー)

 

■Bugs of Phonon 公式SNS
Instagram:https://www.instagram.com/bugsofphonon_official/
YouTube:https://www.youtube.com/@bugsofphonon
Facebook:https://www.facebook.com/bugsofphonon/