TEXT By Megumi N
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前編からの続きをお届けします。ここからはケン・ウーさんと進行役の関谷元子さんとのトークセッションの形式での進行です。
台湾の音楽賞の金曲賞、日本でも話題の宇宙人 (Cosmos People)や盧廣仲 Crowd Luのサイドストーリー、そしてQ&Aコーナーまでとくとお伝えしていきます。それでは本編へ!
- 金曲賞 Golden Melody Awardsについて
- 宇宙人(Cosmos People)とチームMaydayについて
- 盧廣仲(Crowd Lu)と朝ごはんについて
- 台湾のアーティストが日本語詞バージョンを収録する件について
- 韓国生まれ、台湾へ帰化した美男子 "畢書盡 (Bii)"
- これから注目のアーティスト9m88
- 台湾における日本のアーティストの状況
- 質問コーナー
- まとめ
金曲賞 Golden Melody Awardsについて
関谷元子さん(以下、関谷):金曲賞 Golden Melody Awardsは台湾政府が主催する音楽賞である。C-Pop界では毎年金曲賞を気にしている。なぜなら商業的な音楽賞ではなく、裏での操作も全くできない公正な賞だからである。
ケン・ウーさん(以下、ケン):私自身もこれまでに10回審査員をつとめたが、ノミネートならびに受賞する・しないは「音楽」のみで判断され、アーティストの出身地やCDの売れ行きなども関係が無い。ゆえにノミネートされるのが難しい賞でもある。
金曲賞は今年で29回目の開催で来年30回目を迎える。
26回目の最優秀年度歌曲賞は滅火器 Fire EX.の「島嶼天光(この島の夜明け)」が獲得した。これは2014年のひまわり学生運動の際のアンセムソングとなった楽曲である。政府に対して抗議をする活動のために使われた楽曲が政府主催の金曲賞を獲得していることとなる。
ただ「良い曲だから」と受賞したものである。本当に面白い賞である。
宇宙人(Cosmos People)とチームMaydayについて
ケン:Maydayの中国北京におけるコンサートの際、宇宙人は前座をつとめたが、その映像はすぐにアップロードされ、またMaydayのライブへGLAYがゲストで出演した際も、時をおかずにすぐにアップロードされた。
Maydayのチームのプロ根性を感じるエピソードである。
関谷:宇宙人は最近日本での活動が頻繁になってきたので、名前をご存知の方も多いと思う。日本語で歌われている曲もたくさんあるので、ぜひ応援していきたいアーティストである。
盧廣仲(Crowd Lu)と朝ごはんについて
関谷:本人主演のドラマ「花甲男孩転大人」のために創られた「魚仔」は今年の金曲賞にて最優秀年度歌曲賞、最優秀作曲賞を受賞した。また「花甲男孩転大人」は金鐘奨 ゴールデン・ベル・アワードにて11部門にノミネートされている。
ケン:テレビなどで一緒に仕事をする機会もあるが、Crowd Luさんは疲れたときなどに素直に「ケンさん、疲れたぁ~」と甘えてくる一面もある(笑)
また、以前彼から朝ごはんに誘われた際、「(Crowd Luさんがあまりにも有名なので)席を予約しておこうか?」と聞くと「よく知っている店だから、大丈夫!」と言われた。
翌朝、早起きをしてその朝ごはん店に行ったがお店はまだ空いていなかった。
そこで、(まさか一般の方に交じって並んでいるわけないだろう)と思って探したところ、行列の真ん中あたりに並んで手を振っていた。前後に並んでいる方もとてもびっくりしていた。
夜型の生活を送るアーティストも多い中で、朝型の生活を送るちょっと珍しいアーティストである(笑)
台湾のアーティストが日本語詞バージョンを収録する件について
ケン:さて、台湾のアーティストが日本へデビューする際、日本語詞バージョンの楽曲を収録している。日本語バージョンは無くても良い、と思う方はいらっしゃるだろうか。
ーー会場の7割ほどが挙手。
関谷:皆さん、日本語の歌詞がなくても、台湾のアーティストを好きでいて下さるということですね。
言語というのは文化だから、台湾の言葉で歌ったものを日本人が受け入れるというのは大切なことだと思うし、そうあってほしい。
でも、韓国のアーティストなどが、日本に来るときに日本語を話すと、日本人は何はともあれ嬉しい気持ちになる。私が教えている大学で学生にそれを聞くと日本語で歌ってほしいという。だから、日本ではときに日本語で歌ってもらう。それを温かく受け入れてほしい。
韓国生まれ、台湾へ帰化した美男子 "畢書盡 (Bii)"
ケン:いつの時代もアイドルは必要だが、台湾の男性グループはあまり有名になれない。若くてカワイイ韓国のグループの人気が出てしまうからだ。
台湾で活動するアイドル的な存在といえば、デビューしてから10年が経つBiiである。
彼は韓国人の母を持ち、韓国で生まれ育った。そのため、18歳で台湾に来るまで中国語は一言も話せなかった。しかし、台湾でデビューし活躍することを決意したので、兵役に行くことも受け入れて台湾へ帰化した。
これほどのルックスを持ちながらも彼自身はアイドルでありたくないと言っている。だから彼は一所懸命曲を作って、ステージに立とうとしている。
これから注目のアーティスト9m88
ケン:台湾出身、現在NY在住の女性シンガー、9m88に注目している。彼女は中国語で歌い、ソーダグリーンの吳青峰以外にも数多くのアーティストとコラボレートしている。
関谷:彼女は色々なコラボをしているので、彼女自身の個性が見えにくい気がするが。
ケン:ソウル・ミュージックが彼女の本来の個性だと思う。
台湾における日本のアーティストの状況
ケン:台湾のJ-Popを聴いて育った世代は、最近、Mr.Childrenなどのビックアーティストの来台ニュースに沸いている。以前は、有名なバンドや知名度の高い日本のバンドがスタッフを50人引率して来ても面倒を見られる会社がなかなかいなかったのだ。
一方、現在は日本のバンドや芸能人がマネージャーを一人つけてライブハウスツアーをやっている。毎週のように台北Wall,Legacyなどでライブを観ることができる。
質問コーナー
Q1.S.H.E以降、台湾には女性アイドルグループがほとんどいない。それはなぜなのか?
A1.進学問題のためである。台湾社会では学歴や進学率が重視されるので、(家族が)アイドルの研修生に参加することを嫌がるという背景がある。
これまでに日本の会社がアイドル育成のための教室を開こうとしたが、失敗している。
多くのアーティストが大学に入ってからやっとやりたい活動をし始める。また「どうしてもアイドルになりたい」という夢を持つ台湾の女性は、韓国に行ってスクールに入る。
Q2.日本のロックあるいはニューミュージックの世代は60~70代になっても音楽活動を続けている。台湾のジェイチョウ・Mayday世代はこの先も現役での活動を続けていってくれるだろうか?
A2.Maydayは「あと一枚アルバムを出したら終わり」と本人たちが言っているのを聞いたことがある。だから、ファンはアルバムではなくシングルを出し続けて欲しいと願っている。
ただ私が知っているMaydayは後輩想いなので、もっといろんな人に音楽を知って欲しいと考えている。立ち止まることは無いと思う。
ソーダグリーンは、それぞれみんなソロで、好きなことをやっている、バンドとしてはしばらくお休みするのかもしれない。
Q3.Maydayが好きでいつも聴いている。他の台湾アーティストの曲を聞くと、バラードが多くて挫折するが、台湾では暗いテイストの曲が好まれるのだろうか。
A3.カラオケ文化の影響と思われる。以前は、カラオケやパーティーで歌われるための音楽が多く作られていた。今はそういった楽曲は減ってきている。
Q4.台湾のグループやタレントが中国公演へ行くと、中国政府は「台湾は中国の一部だ」と押し付けると聞く。このことについて、アーティスト自身はどう考えているか?
A4.それぞれ、心の中に答えがある。断言することは難しい。
一つ言えることがあるとするならば、多くのアーティストは、より早く自分の音楽を届けることのできる場所を求めている。Maydayが北京でコンサートを行ったのも理想を追い求め続けてのことである。
だからこそ、日本の皆さんにもぜひ台湾の音楽を受け入れていただきたいと考えている。
Q5.以前から台湾語のポップスはあったようだが、最近は特に若いアーティストたちによる「台湾語で歌われるポップス」に焦点が当たって面白くなっている。この流れはどのようにできたのだろうか。
A5.以前よりも自由な時代になった影響と思われる。
というのも、台湾には一時期台湾語を話してはいけない時期があり、処罰の対象となっていた。そういった問題も無くなっているため、若いアーティストもその時一番しっくりくる言語で音楽を創っている。
Maydayの北京のライブでは、10万人ものオーディエンスの前で最後に台湾語の曲を歌った。
今、台湾の若者の中には、台湾語を話せない人もいるが、アーティストが台湾語を歌うことによって、台湾語を広めることもできる。親から受け継いだ言葉を大事にする流れができている。
Q6.今の原住民のミュージックシーンについてはどう思うか?
A6.原住民音楽には「祖先から伝わってきた歌の力」や「気持ち」「魂」を感じ取ることが多い。(原住民の間で話されている言語は)私たちには理解が難しいが、魂を持って歌っていることを感じるから、大好きです!
まとめ
以上、約2時間40分にわたる講座の様子を詳しくお届けいたしました!いかがでしょうか。
個人的には、長年メディアの一線にてご活躍されているケン・ウーさんならではの情報が満載で、とても興味深い講座でした(本当に入場無料でよろしかったのでしょうか…!?)
定期的にこんなイベントがあったらいいなぁと思います。
あとは(運営するのも大変だと思いますが)台湾ポップスと言っても幅広いので、ロックの回、ポップスの回、原住民音楽の歴史の回…など、より深くそれぞれのシーンについて掘り下げるイベントがあったら是非拝聴してみたいなぁと思います。
この記事が、当日いらっしゃれなかった方のお役に立てれば幸いです。
それではまたお会いしましょう。再見!
前編はこちらからお読みいただけます:【詳細レポート】台湾ポップス&台湾における日本ポップスの今 ~台湾における台湾と日本の音楽交流の現状~前編
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