―好きな音楽を聴いて体が勝手に動き出すー
あなたは、そんな経験がありますか?
今回は日本人ドラマーの新道文宜さんにお話を伺いました。新道さんは2015年より台湾で暮らしていて、現在はインディーズバンド「CROCODELIA(鱷魚迷幻/Èyú mí huàn)」にてご活躍中です。
CROCODELIAの音楽性はこんな感じ。こちらのMVでドラムを叩いているのが新道さんです。スーツ男子かっこよー。
インタビュー場所は台湾の中心地台北、現地のローカルな飲食店が立ち並ぶ雙連(Shuāng lián)駅前からお届けしています。
まずは皆さんも興味津々な台湾グルメの話題からスタート。現地で生活している方ならではのリアルが満載のとても貴重なインタビューです。それでは本編へ!
- 台北市雙連(Shuāng lián)駅前、ローカルグルメおすすめ3選。
- 実は新興宗教の家庭で育った
- だけど、自分自身のことはもう大丈夫
- 海外で音楽を続けるつもりはなかった…のに。
- 台湾のみんなと、自由に
Interviewee: 新道文宜(しんどう・ふみよし)/CROCODELIA-幻迷魚鱷(Èyú mí huàn)
Profile:(写真右)東京都出身。中学時代に英語の教科書でSex pistolsと出会ったことをきっかけに音楽へ熱中する。2008年にザ・シャロウズを結成。2014年解散。2015年より台湾へ移住し2016年よりCROCODELIA(鱷魚迷幻)のドラマーとして活動中。台湾の生活やインディーズ情報を紹介するブログ「台湾生活と台湾インディーズのこと。」より現地ならではの情報を発信中。
台北市雙連(Shuāng lián)駅前、ローカルグルメおすすめ3選。
ーーこんにちは、今日はお会いできて嬉しいです!よろしくお願いしまーす。
新道:新道です、よろしくお願いします。
ーーえーとこちらのお店は…??
新道:「雙連高記手工水餃(Shuānglián gāojì shǒugōng shuǐjiǎo)」。水餃子が美味しいですよ。日本から台湾に行く人は、もしローカルなお店に抵抗が無ければ是非こういうところでも食事をしてみてほしいですね。中国語の練習にもなりますよ。
ーー美味しいですし、ローカルの雰囲気も味わえて楽しいですね!
新道:それから、このお店では食べ終わったらお皿をそのままにしておいても大丈夫だけど、お皿を重ねたりまとめたりしておくと「やっぱ日本人は良いな」と好感を持ってもらえます。ではここからあと2軒行きますからねー。
ーーはーい!
新道:次はマンゴーかき氷の「冰讚(Bīng zàn)」です。前はだいたい100元だったけど、人気が出て40元くらい値上げをしたんですよ。見た目もキレイでインスタ映えするから、そういう意味でもオススメ。
ーーこれは果肉が超濃厚ですねえ…!!
新道:次は「阿桐阿寶四神湯(Ā tóng ā bǎo sì shén tāng)」の四神湯ですね。
ーーあの…すみません、私少々おなかがいっぱいでして
新道:それは許さない!(笑)一口でも二口でもいいから、食べてみて。
ーーわかりました…あ、めっちゃ美味しいですっ!!!あっさりしたスープとモツが相性抜群で!昔、母が作ってくれた料理にちょっと似て(中略)台湾へ来てるのに懐かしい気分ですね…!
新道:全部食ってるじゃん!?
--すみません、あまりにも美味しいものですから
※内臓系がお好きな方は是非「四神湯」を試してみて下さい。イチオシです。
実は新興宗教の家庭で育った
―場面は隠れ家的カフェ、別所shelterへ―
(写真引用元:別所 official facebook)
ーー案内してくださりありがとうございました。
えーと改めまして。新道さんのことは当サイトへ読者登録していただいたことがキッカケで存じました。新道さんのブログではこれまで私が知らなかった台湾のアンダーグラウンド寄りのバンドがたくさん紹介されているところがとても新鮮に感じまして。私からコメントさせていただいたことから、インターネットを通して少しずつ交流させていただいて。
で、どんな方なのかな?とネトスト(ネットストーキング)して調べたんですが…。
新道さんがかつてリーダーを務めていた「ザ・シャロウズ」というバンドは、新宿JAM*をsold outしたり、diskunionのチャートに入ったりするなど熱狂的な人気を誇っていたことを知りまして。Wikipediaもあるし。そのような方が台湾でバンド活動をしているということに興味を惹かれました。
*新宿JAM…1980年オープン、東京アンダーグラウンドシーンを代表するライブハウス。スピッツ、エレファントカシマシなどの有名アーティストもデビュー前に出演していた。現在は西永福へ移転。
そんな新道さんにまずは台湾に来る以前、音楽をはじめた経緯からお聞きしたいのですが…。
新道:自分は新興宗教の家庭で育ったんですよ。
ーーわ、序盤からめちゃ重たい話ですねえ…。このことは記事にしても大丈夫ですか?
新道:構わないですよ。隠すようなことでもないし。
--では宗教団体の名前は?
新道:○○○の証人*っていう…
*全世界に支部を持つ宗教団体。熱心な布教活動、輸血禁止、争いへの参加を禁止していることで有名。台湾にも支部があり、公式発表では信者の数は1万人を超える。
ーーあの輸血禁止で有名な。
新道:そのせいで子供の頃は結構いじめられていました。いじめといっても、物を隠されるとかそういうレベルではなくて、毎日のようにリンチ受けたりとか、服脱がされたりとか。
ーー今ならニュースになるレベルですね…
新道:今でも俺をいじめていたやつブッ○してやりてぇな、と思ってますけど(笑)普通は家庭が逃げ場になるんだろうけど、当時は学校から帰っても宗教活動してる人がいるだけで、まるで救いなんてなかったんです。
親に押し付けられて宗教をやっている子供はそう願って生まれてきたわけじゃないんです。だから宗教と現実とのギャップで頭がおかしくなりがちだし、社会不適合者になりがちだし、適応障害になりがちだし、まぁ…精神を病みがちで。自殺してしまった友達もいました。
だけど自分の場合は、音楽に熱中することができたから…カッコイイ言い方をすれば「音楽が救ってくれた」んです。
ーー音楽と出会ったときのことを教えていただけますか。
新道:中学のときに英語の教科書で、セックス・ピストルズ*の写真が載っていました。ボーカルのJohnny Rottenがこう、めちゃ叫んでいる写真で。これは何だろう?と興味を持ったんです。
*セックス・ピストルズ…1970年代にロンドンで結成されたパンク・ロックバンド。王室・政府・大手企業を攻撃した反体制派のスタイルが特徴的。
当時自分が入らされていた宗教では、パンクのようなジャンルは「世の音楽」と呼ばれて聴くことも禁止されていました。でも好奇心が勝ったから、親に隠れてコッソリ聴いてみました。そのことがきっかけで、色々な音楽に触れて…まずはリスナーとして音楽に熱中していったんです。
少なくとも、音楽を聴いている間は幸せだから。死にたくなるようなことがあっても好きなものがあるから、生きてたっていいじゃないか。と、そういう風に思うことができたんですよ。
ーーピストルズといえば反体制のスタイルが特徴的ですが、その反骨心が今に繋がっていると思いますか?
新道:うん。それが原点にもなって、高校生になってから宗教から離脱しました。
ーーそれは…本当に良かった。はじめてドラムのスティックを触った日のことは覚えていますか?
新道:いや、思い出せないです(笑)
ーーわかりました(笑)
だけど、自分自身のことはもう大丈夫
(ザ・シャロウズ時代。写真右側が新道さん。画像引用元:ザ・シャロウズ Offiicial Facebook)
ーーザ・シャロウズ時代の写真やMVを拝見したのですが、かなり個性的ですよね。世代的にはいわゆる邦ロックが流行していたと思いますが、そちらに行こうとは思わなかったのですか?
新道:そっちにはあまり興味が無かったから、パンクとかハードコアを中心に聴いていました。で、その源流を突き詰めていくと1960年代の音楽に行き当たって。60’sの音楽にはカルチャーがまるごと反映されていて面白いなぁと思ったんです。
ーー60’sといえば父の車でビートルズがよく掛かっていた記憶があります。
新道:…いいお父さんだね!
ビートルズが活動していたのって大体10年くらいじゃん?前期・中期・後期で服装が全く違うけど、どうしてビートルズはあんな格好をしていると思う?
ビートルズが流行に流されていた?
違う。ビートルズと時代とが化学反応を起こして、新しいカルチャーを創り出していた。
たとえば、当時開発されたLSD(幻覚剤)、ウッドストック・ムーブメント。時代と音楽が刺激しあって、新しいものがどんどん創造されて、新しいカルチャーが生まれるということに憧れていたんです。
ーー宗教活動によって抑圧されていたことが要因でいわゆる「ビートルズ」のような存在になりたいという自己承認欲求もあったのでは?
新道:ない。それは全くない。確かにいじめられていたことで、俺はダメなやつだ、クソみたいなやつだっていう劣等感はずっと持っていたから、スポットライトの当たる場所に行きたいっていう気持ちはあったかもしれません。でももう宗教から抜け出すこともできたし、日本での仕事や音楽活動を通して自分で自分を認めてあげることができたんです。
ーーでは、音楽によって救われ続けたいという想いはありますか?
新道:それはもうとっくに通り過ぎています。今はドラムを叩くことで、自分はこんな風に必要されているってことがわかった。だから、自分自身のことはもう大丈夫です。
そんなことよりも今の自分がやりたいのは、今住んでいる台湾で「みんなともっと自由に踊って楽しもうぜ!」っていう場所を作りたいってことだけなんです。
海外で音楽を続けるつもりはなかった…のに。
(ライブ風景。画像引用元: CROCODELIA Official Facebook)
ーー新道さんは2015年に台湾へ移住して音楽活動を再開していますが、最初から音楽での成功を志して台湾での生活をはじめたのでしょうか?
新道:ううん、逆だね。日本にいて面白いし、別につまらなくはない。だけどこのまま同じことを続けていたら、5年後も10年後も同じポジションで、同じことをやり続けていくだろうなっていうのが想像できて。そんな自分自身に停滞を感じ始めていた。そして停滞したまま15年後も同じポジションで同じことやっていいの?って思ってた。
それに自分は日本で「ザ・シャロウズ」っていうバンドをやっていたんだけど、これよりいいバンドを作れないなぁと思って。自分が良いって思っていたバンドを超えられない自分を想像したらちょっと情けないなぁと。過去の栄光に縋るオッサンとかいるでしょ。ダサいじゃん。
そこで偶然、働いている会社で「台湾行きたい人いる?」っていう話が持ち上がって。自分から「ハイ!僕行きます!」って立候補した。
ーー良いタイミングだったんですね。
新道:で、実際海外に出たらまぁ…汚い言い方だけど、自分のキャリアにもステータスにもなるじゃん。中国語を勉強して少しは話せるようになったし、日本にいたらまず出会えないような人たちとも出会えたし…
考えてみれば、自分にとってはいいことしかなかった。だから音楽はすっぱり辞めて仕事を頑張ろうかな、と最初は思ってた。
ーーでも台湾に来たら状況が変わったと。
新道:多くの駐在者がそうであるように、台湾に来て3ヵ月もすると新鮮さが薄れてくるのね。そこで酒に溺れたりスナックに入り浸ってしまうような人もいるけど…。自分はせっかくドラムが叩けるから。週末みんなでテニスしようぜ~くらいの感覚で、バンドをまた始めて。
週末は練習して、たまーにライブやって、っていうことを1年くらい続けてた。
ーーそこからCROCODELIAはどのように結成されたのでしょうか?
新道:CROCODELIAの前身となるバンドが解散した後、また新しいメンバーでバンドを組んで、でもドラムが全然決まらなくて困っているという話を聞いて。それじゃぁ俺手伝うよ、と軽い気持ちで手伝い始めた。でもさ、実際に台湾で音楽をはじめてから気付いたことがあるんだけど…周りにカッコイイ!と思えるバンドがあまりいなかった。
ーー新道さんにとってのカッコイイの定義って何ですか?
新道:踊れるかどうかだよね、やっぱり。それってクリックを聴いて正確なリズムが叩ければできることではない。台湾のインディーズバンドの子ってすごく真面目で、楽器は先生に習うもの、曲は楽譜通りに弾くもの、っていう認識を持ってる子も多い。
ーー実際台湾で取材しながら感じたのですが、ライブで音源通りに演奏するバンドも多いなと思いました。
新道:でもそれだったら、別に300元*払ってライブハウスへ行く必要はないじゃん?Youtubeで十分。
*300台湾元…約1,100JPY(2018年7月6日のレートに基づく)
もちろん、そういう音楽が好きな気持ちを否定するわけじゃない。
でも「音楽って難しく考える必要なんてなくて、もっとこういう風に自由に楽しんでいい!」っていうのを、自分のエゴかもしれないけど…自分のエゴだけど、もうちょっとわかって欲しい。日本なら俺と同じ考えを持っている奴らはいっぱいいるけど、台湾ではまだマイノリティだからさ。
それに自分自身だってそういう自由な気持ちで楽しめるシーンができたら、もっともっと楽しくなるじゃん?
台湾のみんなと、自由に
ーー先ほどシーンという言葉も出ましたけど、仲間を増やしたいと思うタイプなんですか?
新道:そうだね。深く付き合いたいとか友達が欲しい!っていうタイプではないけど、音楽好きじゃん、自分。で、好きな音楽が鳴っていて「自然と体が動き出す」っていう感覚を共有したくて。それだけで楽しいし、好きなものを共有できる仲間ができたら、もっと楽しくなる。そういうシーンを作りたいと思ってる。
ーーえっと・・・?
新道:・・・・?
ーー・・・・・新道さんにとって、シーンというのは具体的にどういう状態ですか?
新道:「自由に音楽を楽しむ」という目的で集まった仲間がいて、新しいものを作って、次はもっとこういうものができる!って発展していったら、面白くない?
ーー面白いです。
新道:それからさ、ジェームス・ブラウンのI FEEL GOODがかかって、体が勝手に踊り出すのが自分だけだったらサミシイでしょ。でも、曲がかかった瞬間に100人が突然踊り出したら、めっちゃ面白くない?
ーーそれは…めっちゃ面白いです!!
新道:でしょ?そういうこと、そういうこと(笑)
ーーそういう場に自分の居場所を見出す人もいると思うんですよ。外でつらいことがあっても、ここなら居心地がいいという…
新道:いるね、必ず。ただ、シーンに凝り固まっちゃうと外に出ていかないし、シーンの人に好かれようとしちゃうっていう悪い側面もある。だからバンドの売り文句で「ジャンルやシーンに囚われず」って書きがちでしょ?
ーー書きがちですし、その表現で逆に個性が薄まっていますよね…
ーーええと、先ほどおっしゃっていたように、新道さんの「クリックなんて聞いてないで、もっと自由に音楽を楽しむ」という考え方は台湾においてはまだ新しいカルチャーだと思いますが、手ごたえは感じていますか?
新道:うん、徐々に感じはじめてはいるよ。ただ、まだピンと来てない人も多い。たとえばこの前「老王楽隊(Lǎo wáng yuèduì)」と対バンしたんだけど…。
(参考:老王楽隊のキラーチューン「我還年輕 我還年輕」。)
ーーいま台湾のインディーズ界隈でかなり人気のあるバンドですね。
新道:やっぱり音楽性が対称的だからなのか、老王楽隊が目当てで来ていたお客さんは僕らのステージを観てポカーンとしていたよ。音を聞いて踊る、という習慣がないからだと思うけど。
でも、僕らのライブに来てくれたら絶対楽しさがわかってもらえると思う。いいリズム、いいメロディがあったら、体が勝手に動き出す。みんなまじめにやってないでさぁ、もっともっと自由に楽しもうぜ!そういうノリがもっと広まったら嬉しい。それにCROCODELIAはメンバーもカッコいいし、是非ライブに会いに来てほしいな。
ーーあ…そういえば今日とあるCDショップを訪問して、店員さんに雑談のついでに「CROCODELIAを知っていますか?」って聞いてみたんですよ。そしたら「知ってる」と言ってました。それに新道さんのことも、友達ではないけれど一方的に知っていると。
新道:それは嬉しいね!
(前半はここまで)
後編
インタビュー!新道さんが台日音楽関係各位に喧嘩を売っててビビるけどタピレコが代わりに謝るから許してね★ミ - Tapioca Milk Records
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