(Photo by Eli Hsieh Offiicial Facebook)
音楽シーンにはポスト「天才」が多い。若くて歌がうまければ天才、ギターがうまければ天才。なにかとひとことで括りがちである。
この単語はインパクトが強いし、プロモーションでもなにかと使いやすい。ところが、少々ひねくれてる当方にとってはまたか…と食傷気味になってしまうのも正直なところなのだ。
とはいえ、もちろん。20代、30代になっても天才性を披露し続けるアーティストたちがいる。台湾の男性シンガーソングライターで2人名前を挙げるとしたら、盧廣仲 Crowd Luと謝震廷 Eli Hsiehの2人ではないだろうか。
早速ご紹介していきたい!
盧廣仲 Crowd Lu
1985年生まれ、台南出身のCrowd Lu。所属レーベルは添翼創越である。
本人主演のドラマの主題歌「魚仔」がかなり話題となり、アコースティックサウンドのイメージをお持ちの方も多いかもしれない。
たしかに魚仔は名曲である。しかしCrowd Luのもっともイケているポイントは、歌い分けの守備範囲が広いところだと思う。
たとえば、かつての"渋谷系"を思わせる「ドント・コールミーベイビー」のような作品や、台湾の炭酸飲料「黒松沙士」*のCMソングとなった「敢傻 就是我的本事」のようなさわやかなポップスまで歌いこなしてみせるのだ。
*黒松沙士とは…1950年より販売されている台湾の大手飲料メーカー「黒松」の看板商品。台湾のコーラとして親しまれている。なお日本人の味覚では「サロンシップの味がする…」という感想も聞こえてきている。
「寝てる時に電話しないで たとえ一番の親友だとしても」
(Youtube日本語歌詞より抜粋)
「I dare, Why dare, A stupid dare!」
(歌詞より抜粋)
とはいえ、歌い分け、音楽性の幅広さ、詩的センスという意味では日本にも安藤裕子氏のような人材もいる(シンガーソングライターのほうの)。だから、彼の音楽性は天才というよりも奇才にカテゴライズされると思う。
私が「あ、この人天才だ…」と感じたのは、先日東京渋谷で行われたTaiwan Beatsでのことだ。この日のライブは台湾の今の音楽シーンを率いるとされる3アーティストがそれぞれのステージを披露していた。
そこで周りをチラチラ観察してみたところ、会場の後方には明らかに"業界のおじさま"たちもたくさんいらしていた。ソ〇ーミュー〇ックの方だろうな…とか。本当。
そういう場って、日本市場を拡大をしたいアーティストにとってはまたとないアピールの機会のはずで、たとえばパンクバンドの滅火器 Fire EX.なんて同時通訳の時間を設けてまで日本への熱い思いを語ってくれていた。
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さて、このステージでトリをつとめたCrowd Lu氏。どのような演出になるのかな?と観察していたところ、MCパートでは開口一番「今日、みんな、笑った?」「じゃあ、1、2、3で一緒に笑お?」とカタコトの日本語で、そしてあの独特の笑顔で言っていたのだっ!
そしてお客さんも普通に笑っていた。……わっはっはっは。
このときのことを、ライブレポート上ではさらっと「この天真爛漫さにフロア全体が暖かな笑顔に包まれました。」としたためたけれど、実は私自身はここで圧倒されていた。ちょっと考えてみてほしい。
音楽経験がある皆さん、自分が外国へライブに行って「1、2、3で一緒に笑お?」って言えますか?もしも私がシンガーソングライターだったら「皆さんこんにちは~!タピオカミルクレコードでーす!次の曲は~」と普通に挨拶してしまいそうだ。だから、ずいぶん自然体で、ハートも強いなぁと度肝を抜かれていたのだ。
楽曲・歌い分けの幅広さのみならず、Crowd Lu氏には天性のアイドル性というか、人を巻き込む器の大きさがあると思う。これから長いキャリアを築いていくなかで、日本のファンをどんどん取り込んで欲しい。
謝震廷 Eli Hsieh
(オーディション番組「超級星光大道」での一場面。台湾SSW蔡旻佑の「我可以」を歌いこなす。)
もう一人、異なるタイプの才能を紹介する。彼の名は謝震廷 Eli Hsieh。1993年生まれ、台中市出身である。所属事務所は日本でも話題になったお天気お姉さんアイドルグループ 天氣女孩 ウェザーガールズと同じく十全娛樂。
彼はわずか13歳の時にオーディション番組に出演し人気を博した。冒頭でご紹介したのはその時の映像である。
当時から伸びやかな発声と声質を持ち、中~高音域も綺麗に歌いこなしていて、それだけでも「あらぁこの子天才ね♡」と言える。しかし、よく観察するととやはり年齢のせいか低音域には若干難も見られる。
その後の彼は変声期を迎え、コンピレーションアルバムならびにバンドへの参加はしつつも、しばらく個人としては目立った活動は見られていなかったようだ。天才は成長とともに凡才になったのだろうか?
ー答えはNoである。彼はギターを練習し、作曲を会得し、大いなるパワーアップをして表舞台へ姿を現した。それを裏付ける出来事として、2016年の金曲賞(台湾でもっとも権威がある音楽賞と言われている)では最優秀新人賞を獲得したことが挙げられよう。受賞時のアルバム「查理 PROGRESS REPORTS」から一曲ご紹介する。
「我不想做太陽 我不想再逞強
我只想為你 做一盞燈光
在你需要我的時候把開關按下」
僕は太陽にはなれない 強くなりたくもない
ただ あなたのためだけの 光を作りたい
あなたが僕を必要とするとき スイッチを押してもらえるような
(燈光 Lightより歌詞を引用 意訳:タピレコ)
詞世界が内省的でロマンチックである。また、声質はすっかり変化してるとはいえ、「燈光 Light」へ集中して耳を傾けてみると、彼の個性を彩る歌いグセは13歳のころから変わっていないことがわかるだろう。
また彼の楽曲はしっとりとしたバラードのみにとどまらない。同アルバムに収録されているYou Found Meなんかは流行のラップも取り入れ、かなり攻めている。
ちなみにコーラス編集には数々のアーティストへ楽曲を提供する小宇氏も参加している。名曲にならないわけがない。
日本向けにはあまりプロモーションを展開していないため、Crowd Lu氏ほどはご存知の方が少ないかもしれない。しかし、2018年にはミュージカル舞台「Re:Turn」にも参加するなど着実にキャリアを積んでいくタイプなのかもしれない。
ぜひ皆さんにも、フルアルバムをチェックしていただきたいっ!
さいごに
若いうちに芽を出した才能が、たくましく生き残っていくのは難しい。才能は憧れられ、そして嫉妬されるからだ。でもこの二人は末永くシーンに残っていく気がする。
さあ、あなたはどちらの天才が好きですか?どっちも!なんていう意見も、もちろんオーケーに決まっている。また、こんな天才性を持ったアーティストがいるよ!という情報もお待ちしている。
それでは、再見!
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