Mong Tongが語る、東洋から生み出す音とミュージシャンのコミュニティ

photo by Etang Chen

 

ホンユーとジゥンチーの兄弟による台湾の音楽ユニット、Mong Tongが2017年に活動をはじめてから約5年が経過した。代表作『秘神 Mystery』『台湾謎景 Music from Taiwan Mystery』に見られる、台湾の80年代のオカルトブームと台湾の伝承民俗を核に、サイケデリック・ミュージックや電子音楽で巧みに創られた音楽性が欧米でも評価されている。幾何学模様が2022年6月から行うUK/EUツアーのスペシャルサポートアクトとして帯同することも決まった。さまざまな音楽性を包含する台湾のシーンでも異彩を放つ存在だ。

 

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私自身も、オリエンタリズムと電子音楽、サイケデリックを融合させた強烈な個性や、目を赤い布で必ず覆い隠しているなどのミステリアスさに惹かれ、これまでMong Tongとの接触を試みてきた。

 

だがある日、注意深く彼らの音楽を聴いてみると、その魅力は、アンビエントを核とした『Orientations』、台湾の老舗レーベルのロック・レコードが企画した名曲カヴァー企画『滾石40 滾石撞樂隊40團拚經典』への収録曲を通じても感じられることに気づいた。ここには、2人の実力やセンスもさることながら、音楽シーンのコミュニティの影響もありそうだ、という仮説を立てた。

 

私はあえて『秘神 Mystery』『台湾謎景』以外の作品にフォーカスしたいと考えるとともに、まずは近況を聞くところからはじめた。

 

台湾固有の音楽を発信するアーティストをリスペクトしています

 

ーー2022年の活動について教えてください。大型の音楽フェスティバルが続きましたね。

 

ジゥンチー:直近ではSYNERGY Festival(新能祭)、Megaport Festival(大港開唱)に参加し、両方とも良い音楽祭だったと思っています。SYNERGY Festivalは電子音楽のアーティストが集まる音楽祭で、主催者の一人はベテランDJのSonia Calicoです。

 

ホンユー:Sonia Calicoは普段The FINAL CLUBというナイトクラブでDJをしています。The FINAL CLUBはアーティストにとって自由度が高いクラブで、僕たちもよく出入りしているから縁があって。ただ、僕たちは100%電子音楽のバンドというわけでもないから、先輩にあたるルー・ジァチー(破地獄, 湯湯水水)、ジョン・ドゥー (Forests)の2人と出演しました。

 

 

ーーMegaport Festivalは、大型の音楽祭ですが雰囲気はいかがでしたか。

 

ホンユー:以前高雄で学んでいた時期があり、メガポートフェスティバルに毎年通っていました。以前はそこまでオーディエンスが多くなかったけれど、直近の2年間は人気が高まっていて、チケットは約20分で売り切れたようです。昔見てたステージに、二人の力で立つのはとても感動しましたね。

 

ジゥンチー:対して僕は、Megaport Festivalに行ったことがありませんでした。最近は家で音楽を作るのが好きで、大型のフェスティバルへの出演については高いモチベーションがあったわけではなかったのですが、休憩場所の設置なども含めとてもミュージシャンにフレンドリーな音楽祭なので、良い経験になったと思います。



ーー音楽祭もそうですが、参加する企画のスケールも大きくなっていると感じます。ロック・レコードの名曲カヴァー企画「滾石撞樂隊40團拚經典」にはどういった経緯で?

 

ホンユー:打診があったのは2020年の秋ごろです。Pawnshopというクラブでのライブの後、ロック・レコードからメールがきて誘われましたが、まさか実現するとは思っていませんでしたね。

 

 

ーーあえてウーバイの「怨嗟嘆」を選曲した理由は?

 

ジゥンチー:選曲については、「曲の権利がロック・レコードにある曲ではないといけない」という条件があり、そのリストから選ぶ必要がありました。実は最初は金門王 チン・マンワンの『飲者之歌』にするつもりでしたが、実はこれはカバー曲で、選曲できないことがわかりました(笑)

 

次の候補として、金門王&李炳輝 リー・ピンフィの『流浪到淡水 Odyssey』を検討しましたが、アレンジがむずかしく断念。その時点で締め切りが迫っていて途方に暮れましたね。そこでリストを眺めていると、ウーバイの初期の曲があることに気づき、他のアーティストと被らないよう、あえてマイナーな「怨嗟嘆」を選びました。有名な曲をカバーしても手ごたえがないと思って。

 

 

ーーボーカルに百合花のイーシュオを迎えていますが、彼に入ってもらった理由は。

 

ホンユー:まず、「怨嗟嘆」は台湾語なので、台湾語で歌えるボーカリストを探すと相当数が限られます。加えて、百合花を台湾の伝統音楽にロックの要素を加えられる数少ないバンドとしてリスペクトしているからです。今、台湾で台湾語を歌うバンドはいますが、多くの場合、ロック音楽に台湾語の歌詞を加えただけです。その点、百合花は、台湾の伝統音楽にロックの要素を取り入れている。核が台湾で、ロックがスパイスである点が良いですね。

 

実際にイーシュオへ打診をすると、即レスでOKもらうことができたばかりか、「ちょうど新曲のレコーディングをやっているから、その流れでレコーディングできるよ」ということで納期的にも随分スムーズに完成しました。

 

▼百合花のイーシュオや、台湾の伝統音楽「北管」「南管」について知りたい方におすすめの記事はこちら

mikiki.tokyo.jp

 

ーー2021年のアンビエント・アルバム『Orientations』についても教えてください。

 

ホンユー:正直に言うと、このアルバムにはコンセプトがありません。ただ、新曲を作るなら、アンビエント・サウンドを作りたいと考えていました。PawnshopのコミュニティでつながりがあるSMOKE MACHINEという電子音楽レーベルのPodcastに気ままにアンビエントサウンドを録音して送り続けていたら、このアルバムが完成しました。

 

 

 

ーー創作のインスピレーションになったものを挙げるとしたら何でしょうか。

 

ホンユー:コロナウイルスによる環境の変化です。ちょうどこのアルバムを作っていたのは2021年の5月ごろで、台湾で最もコロナが一番厳しかった時期で。とてもイライラしてて、それを緩和したいという気持ちでアルバムを作りました。仕事が減っていたのは不運かつ幸運で、音楽に集中する良い機会でしたね。

 

ーー音楽面でインスピレーションになったものはなんでしょうか。

 

ジゥンチー:海外のアンビエント作品に影響を受けました。僕は普段コケ植物のお店を経営していて、店内のBGMとしてアンビエントの音楽をよく流しているんです。Voyage Futurの『Inner Sphere』、矢吹紫帆の『New Meditation』は繰り返し聞いていました。

 

ホンユー:アルバムをリリースしてから、Soraの『Re:sort』というアルバムを聞きました。『Re:sort』はコンセプト的にも非常に完成度の高いアルバムで、もっと早く聞けばよかったと感じましたし、『Orientations』にあまりコンセプトがないことをその時はじめて悔みましたね。

 

Mong Tongと台湾のコミュニティ

ーー続けて、2020年リリースの『Corps of Light』について教えてください。アルバムタイトル、音楽性、アートワークから一つのストーリーを感じます。

 

ジゥンチー:これは『Mystery 秘神』の後で、ダークな雰囲気を作りたいという意図で作ったアルバムです。『Corps of Light』というタイトルは、暗い道を歩き続けていたら、光が差し込んだ、という光景をイメージしています。

 

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ーーアートワークについてはどうですか。

 

ジゥンチー:実は台湾の布袋劇の背景を引用しました。布袋劇というのはもともと台湾の田舎に伝わる神々の娯楽のために創られた舞台劇で、この背景をアートワークに使いたいと考えていたのですよ。

 

(布袋劇の背景の例。引用元:台的精彩!布袋戲的佈景美學. 傳統布袋戲的佈景有幾個特色,讓它成為一種辨識度超高的台式美學: | by 新勝景掌中劇 | 台灣的文藝復興運動 | Medium

 

ーー音楽的にはどういったところを目指しましたか。

 

ジゥンチー:ひとつ前に制作した『Mystery 秘神』は評判がよく、その印象を突破しようとし制作したのが『Corps of Light』でした。5曲入りのEPですが、どの曲にも新しい試みを取り入れています。まず、1曲目『Corps of Light』と2曲目『Engravings』はつながっているように作った。これは初めてのチャレンジでした。それから、3曲目『Lake in Limbo feat. Sun Jenga』、4曲目『Windtown feat. 檳榔袋鼠』では他のアーティストとのコラボレーションにチャレンジ。5曲目『Oracle & Allegory』では初めて、シンセサイザーだけで曲作りを試しました。

 

ホンユー:ミキシングのやり方として、『Mystery 秘神』は異なる時期に作った曲を1つの作品として筋が通るように纏めたのに対し、『Corps of Light』は同じ時期に作った曲の集合体なのでより一貫性を持たせることができました。加えて自分に締め切りを設け、時間のプレッシャーとともに完成したアルバムです。『Mystery 秘神』とは制作した違う味わいとなり、その過程で、僕自身の音楽制作の技術も高められたと思います。

 

ーーSun Jengaが参加した「Lake in Limbo」、Betelnutが参加した「Windtown」、いつものMong Tongとは異なりますね。

 

ホンユー:2人ともそれぞれバンド活動をしていますが、トラック・メイカーに近い立ち位置。住んでいる場所も近いからよく遊んでいて、遊びに来た時に彼らを巻き込むことを思いつきました、「1週間で何か作って来て」とお願いし、自分たちは、ビートとリズムを作って二人に送り、曲のアレンジは二人に任せるというやり方で、どう仕上げるかは二人次第。一週間後に蓋を開けるととても良いものを作ってくれたので、アルバムへ収録させてもらうことにしました。

 

ーー彼らの魅力は?

 

ホンユー:Sun Jengaの魅力は、アフリカのトライバルテイストのような、独特の雰囲気で曲作りができる点で、台湾ではできる人が少ないと思います。僕にとっては、小学校からの知り合いでもあります。

 

ジゥンチー:Betelnutは彼は昔ヘビーメタルをやっていましたが、今はブラックメタルとダーク・アンビエントが融合した「Dungeon synth」というジャンルの音楽が作れる稀有なアーティストです。

 

「1週間で作って来て」なんて、他のミュージシャンならまるで冗談にも思えるけど、彼らの音楽性を丸ごと信頼した上で依頼したんですよ。年齢が近いのもありますしね。

 

ーーここからは、台湾で実験的な音楽性のミュージシャンとのつながりについて教えてください。まずDope Purpleの劉堅白はどういったきっかけで?

 

ホンユー:僕がはじめに出会ったのは、劉堅白がDope Purpleを結成し、最初にシンセサイザーのメンバーを探している時のことです。僕も最初はシンセサイザーとしてDope Purpleに参加したのですが、落差草原が忙しくなり脱退せざるを得なくなりました。その後新しく加入したシンセサイザー担当が、Sun Jengaというわけです。

 

ジゥンチー:その後、Dope Purpleではギタリストも探しているという話になって、僕が加入しました。劉堅白は日本のシーンを通っているならではの豪快なやり方でバンドをしている人で、ライブで必ず録音する点、ライブの時は必ず大声と爆音がマストという点は、はじめはとても奇妙に映りましたが、彼は本当に特別な存在だと思います。

 

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ーーPrairie WWWWの小白にはどうですか。

 

ホンユー:小白はイーノン・チェンのドラムを叩いたり、ManicSheepのメンバーとして活動したりもしています。純粋にドラムが好きなドラマーです。常に初心に返って、リズムパターンを研究しています。小白と話すときは、いつも楽しく音楽交流ができます。

 

ーーチェン・ユーフーは、サイケデリックな音楽性でつながりがあるのではないですか。

 

ホンユー:2027年に、台北RevolverでMong Tongとしてライブに出演することになったものの、ジゥンチーが出られないことになって、代わりにYufuと一緒にライブをしたことがあります。その時は、Hom Yu+Yufuで「YU&YU」というユニット名でした(笑)

 

写真の説明はありません。

(出典元:愛你啾啾手槍跨年演唱會

 

鱷魚迷幻が活動休止をしてしまったのは残念です。彼はずっと60~70年代のサーフロック、サイケデリック音楽を広めることに専念しており、ロマンチックな一面があると思います。

 

 

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アジアだから発信できる音がある

 

ーー2人は本当に幅広い音楽を聴いているけれど、その感性はどこから来て、今後どこを目指していくのでしょう?

 

ジゥンチー:小さいころから音楽を聴き始め、高校生くらいまでは重めのロック・ミュージックをよく聞きました。少し疲れてきたときに、異国的なエキゾチックな音楽を聞きたくなり、他の国の音楽をディグりはじめました。文化の違いに優劣はないですし、他の文化で創られた音楽を聞いて、違う気分を味わいたかったんですよね。

 

ホンユー:東洋人だからできる音楽があるということを広めていきたいです。音楽ジャンルは必ずしも西洋から来たロックや、それらをアレンジしたものだけではないし、西洋にルーツがないものがもっと聞かれて行って、アジア人特有のジャンルをつくりあげても良いかなと思います。次回作のコンセプトは「東南アジア」です。

 

ジゥンチー:そのために、ebayでタイの伝統楽器である「Phin」(ピン)を買いました!

 

(オンラインインタビュー中にPhinを見せてくれました!)

 

ーー次回作も楽しみにしています。今日はありがとうございました。

 

photo by Etang Chen

 

編集後記

Mong Tongとはじめて会ったのは、2019年。台湾へ取材旅行に行った際、ZINE欲しさにFacebookで話しかけてみたところ、わざわざMRTの駅まで届けてくれたのを昨日のことのように覚えています。ZINE「ここに載っているのはお寺だから、厳かな気持ちで行ってね」と優しくアドバイスしてくれました。ユーモアとリスペクトの両方があることを確信しました。これからの活動もとても楽しみにしているし、日本からひっそりと(?)応援していきたいと思います。

 

そして、普段の2人ってどんな?と聞いたところ、プライベートな写真も頂けたので特別に公開しまっす!

 

 

おしらせ(おまけ販売について)

ここまでお楽しみ頂きありがとうございました。本編にまとめきれなかった内容を、noteでおまけとして販売しています。

 

主に
・彼らが幼少から今まで聞いてきた音楽
・最近聞いているアルバム
・日本と台湾に心のつながりはあるか?
・最新アルバムについて

これらを一問一答でシンプルに聞いたものです。

 

売上は、今後計画している台湾インディーズZINEの制作費として使わせていただいたり、同時通訳を頑張ってくれた張家綸さんへ還元したりします。こちらのリンクからお読みください。