台湾の「雨」が見える音楽/AKNIT(タピレコのオフレコ #4)

 

2022年4月24日配信、【タピレコのオフレコ #4  台湾の「雨」が見える音楽】の書き起こしをお届けします。

放送に収まりきらなかった笛岡さんへのインタビュー内容も記載します。

 

 

タピレコのオフレコ #4 台湾の「雨」が見える音楽

 

Spotify有料会員の方は、アプリからお聞きいただくと曲をフルサイズで楽しむこともできます。

ご意見、ご感想をぜひ、Twitter ハッシュタグ #タピレコのオフレコ でお寄せいただけますと幸いです!

 

全文書き起こし

 

「タピレコのオフレコ」は、Tapioca Milk Recordsの中村めぐみによる、アジアと音楽にまつわるストーリーを発信するPodcastです。

 

今日は、台湾在住の日本人の音楽家の方による、台湾の「雨」が見える音楽についてお話していきます。

まずは1曲聴いていただきましょう。AKNIT(アニット) で 「Hakuu」です。

 

 

お送りしたのはAKNIT で 「Hakuu」でした。
「白雨」は、 雲がうすくて明るい空から降る雨、夏に降る夕立やにわか雨のことを言います。

ギターポップを軸に、とてもメロディアスなのですが、音数が多いわけではなく、かといって寂しくない、幸せな祈りのような音楽で、癒しというよりも「なんか今日もやってくかー」と思える、前向きさを感じます。

 

ギター、歌というシンプルな構成だからこそ、時々差し込まれる電子音が情感豊かに響きますね。

 

AKNITは、現在台湾の台北を拠点に活動する日本人の音楽家、笛岡俊哉さんによるソロプロジェクトです。

 

AKNITは、「アニット」と読みます。「A」と「KNIT」を繋げた造語で、ひとつの結び目、編み目のような意味です。哲学者ハイデガーの、ある文章からヒントを得ました。
(笛岡さんコメントより一部抜粋)

 

笛岡さんは、台湾に渡航する以前は日本にお住まいで、2002年からフレンチドリームポップユニットmondialitoの作曲者として活動をスタートしました。

 

以来、スウェーデンの音楽家トーレ・ヨハンソンらとともにワールドカップコンピレーションに参加したり、森田童子のぼくたちの失敗をフランス語で歌った「notre echec」(ノートレシェイ)は、韓国の企業LGのCMに起用されたりなどしています。


台湾の関わりとしては、2007年の魏如萱Waa Weiの1stアルバム『La Dolce Vita 甜蜜生活』のプロデューサーとしても参加しています。2008年に台湾、北京、上海とツアーを行うなど、国際的に活躍をしている音楽家です。


その後2013年ごろに台湾へ渡航し、プロデューサー、エンジニアワークを多数手がけています。プロデューサーとしての活躍としては、台湾には「金曲獎」という、台湾音楽界を挙げたアワードというか式典があり、2021年に行われた第三十二回の「金曲獎」では、メインプロデューサーとして参加した柯泯薰(ミシク)の「Drawing Dialogue」はBest Vocal Recording賞にノミネートされています。

 

はい、私がそんな笛岡さんの音楽と出会ったのは、台湾のStreet Voiceという音楽プラットフォームで、「modern love」という曲にたまたま出会ったときに遡ります。

 

「modern love」はAIの視点から人の世界を見るというコンセプトで、「Hakuu」と同様に少ない音数と、笛岡さんによるボーカルのバランスが発する雰囲気がすごく良くて、たった1曲なんですけど、もう恋に落ちたというか。1日50回くらい聞いていた時期があったんですね。そこからインターネットで検索しまくって、AKNITが日本人の方のプロジェクトということを知るという。

 

そんな出会いのmodern loveも流したいんだけど、Spotifyにないので、今日は流せないのでみんなStreet Voiceで聴いてください。

 

 

このPodcast、Spotifyで流れるのにStreet Voiceに誘導するっていう(笑)

 

で「Hakuu」話を戻すと、とても良いなーと思ったので、笛岡さんに直接、コンセプトやストーリーについて聞いてみました。

 

Hakuuのコンセプトは祈るということがどういうことか、というひとつの側面をストーリーは、ストーリーとしては祈りが時間、地理を越えて、どんなふうに届くか、です。

冒頭に出てくる、「遠くの星の少女」の祈りが地球の人々の涙になって、やがて人が何も感じなくなって、AIが存在として残った世界で、遠くの星の少女の祈りが、過去から、そして未来から届いてくるかもしれない…ということです。

 

はじめは、どこから届いたかもわからないなにか(=遠くの星の少女の祈り)が、地球の人々の涙になり、その地球の人々も祈りが涙になった自覚はないのですが、まだそうした何かが現象として現れる、ある意味では救いがあるような段階です。
そして、やがて人々はその涙すら流さなくなって、何かを感じ取るようなこともなくなり…
人々が居なくなった後、AI(冷たい石の記憶)が存在として残った世界で、あの少女の祈りは過去からまだ届いて、ひょっとしたら、未来から届いてくるのかもしれず…
(笛岡さんコメントより一部抜粋)

 

ちなみに「modern love」と「Hakuu」は同時期に作られた曲で、祈りの概念は「Hakuu」と同等になっており、「modern love」のほうは、その祈りの届きと愛の距離みたいなものが歌詞に反映されていると思います、とのコメントを頂いています。

 

また、「Hakuu」のアレンジやサウンドプロデュースをするにあたり、当時作っていた曲は、エレクトロニカというか、グリッチ音を基本的に入れていましたが、それと、ギターと歌というありきたりな音とのバランスには気を使われたり、なんと、マイクを自作したりなどだいぶ苦労していて、当時使ったマイクは、いまも他の方の歌を録音するために使われていると伺いました。

 

もちろん、一から設計はできないので、回路図はコピーしたものですが、パーツの面で色々試したので、その面で大分苦労しました。

(笛岡さんコメントより)

 

さてそんな笛岡さんですが、自然や季節といったテーマの作品を多く手掛けられています。2019年には、中華圏の季節、24の季節にあわせて24曲制作した「24節気」(にじゅうしせっき)というアルバムをリリースしています。


タイトルは、「大寒」とか「立夏」など、あの、カレンダーに載っているアレです。この放送を収録しているのは4月22日で、「穀雨」という季節です。早速聴いてみましょう。

 

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「地上にあるたくさんの穀物に、たっぷりと水分と栄養がため込まれ、元気に育つよう、天からの贈り物でもある恵みの雨が、しっとりと降り注いでいる頃」という穀雨、今の季節とつながる雰囲気を感じることができるのではないでしょうか。

 

また笛岡さんは昨年、2021年に音響の記述をするというコンセプトのプロジェクト「SONUSGRAPHIA」を発表、宜蘭の海や、台北の雨の音を映像とともに記録した作品をYouTubeから見ることができます。
今日は最後に、「SONUSGRAPHIA」から「TAIWAN RAIN SOUND #1」を聞いてみましょう。これまで台湾に行ったことのある方は、旅行中に急に雨に降られた、という経験をしたのではないでしょうか。その時の香りや湿度、その時の気持ちが、台湾の風景とともによみがえってくると思います。

 

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タピレコのオフレコでは、皆さんからのご意見ご感想をお待ちしています。#タピレコのオフレコ でご感想を頂けたら幸いです。それではまた、お会いしましょう。

 

タピレコのオフレコのオフレコ!

祈りがもたらす涙が雨の音として差し込まれる「Hakuu」、稲穂についた緑の滴すら見える「穀雨」、台湾の等身大の雨を記録した「TAIWAN RAIN SOUND #1」、異なる響きを持つ雨の音がそれぞれ気持ち良いなと思います。笛岡さんの活動は要チェックなのでぜひ話を聞きましょう。