【新譜情報】イーノ・チェン、2年ぶりの新アルバム『圓缺 Moon Phases』で台湾語ポップスの可能性を更新

 

──言葉が届かぬ場所で、不完全な私たちが“満ち欠け”と共鳴する

 

台湾のシンガーソングライター、イーノ・チェン(Enno Cheng)が、2025年5月1日に最新アルバム『圓缺 Moon Phases』をデジタルリリース。フィジカル盤は5月16日に登場する。

 

5月5日に公開された同名タイトル曲「圓缺 Moon Phases」のミュージックビデオには日本語字幕も付され、日本語リスナーにとってもその世界観に深く触れられる内容となっている。

 

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2年ぶりの新作となる本作は、2023年に第34回金曲獎(ゴールデン・メロディー・アワード)で「最優秀台湾語アルバム賞」と「最優秀台湾語女性歌手賞」に輝いた前作『水逆 Mercury Retrograde』の流れを汲みつつ、さらなる進化を遂げた意欲作だ。音楽、詩、映像、演劇とジャンルを横断しながら創作を続けてきたイーノ・チェンの「今」が、力強く、そして繊細に刻まれている。

 

アルバムは全10曲を通じて、人がこの世界に生を受けた瞬間から始まる、光と闇のあいだを循環し続ける「圓缺(満ち欠け)」の旅を描く。それぞれの人生における異なる物語の中で経験する――傷と生存、抑圧と渇望、愛と憎しみ、脆さと依存、生と死、そして円満と欠落――といった共通の生命の課題に向き合っていく姿をそっと浮かび上がらせる。

 

本作では、サウンド面においても新たな挑戦がなされている。ポップスやフォーク、ダンスミュージック、アンビエントなど、現代的で多彩なエレクトロニック・サウンドを取り入れ、実験的な即興音響との融合によって、台湾語ポップスに対する既存のイメージを軽やかに超えていくような、新たな音の地平を切り拓いている。そしてその背景に、これまで同様にリスナーと誠実な対話を重ねようとするイーノ・チェンの姿勢を確かに感じさせる。

 

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制作陣には、前作同様に共同プロデューサーを何俊葦(Chunho)、台湾語のヴォーカル・プロデュースを何欣穗(ciacia)が手掛ける。ミキシングを黃文萱(Ziya Huang)、マスタリングをWayson Screamが担当。各分野の精鋭クリエイターとともに、音の細部にまで丁寧な手仕事が施された作品に仕上がっている。

 

本作についてイーノ・チェンは「『圓缺 Moon Phases』は、詩集であり、ひとつの独白のようなアルバム」と語っている。人はなぜ完全にはなれないのか──「私たちは決して自分の感情を言葉だけで他者に伝えきることができない」という前提を抱えながら、それでも誰かと共鳴しようとする営みを、音楽、映像、詞といった多様な表現を通じて掘り下げていく。『圓缺 Moon Phases』は、言葉の届かぬ“欠落”や“哀しみ”に近づこうとする、そして言語の限界を超えた場所へ歩み出すための、「共感」の実験でもある。

 

リリースを記念して5月1日・2日にZepp New Taipeiで行われたソロコンサートは両日完売。デジタル時代において、言語や国境を越えて響く音楽が求められている今、イーノ・チェンの『圓缺 Moon Phases』は、台湾語というローカルな言葉で描かれた新しい「普遍」の姿として、静かに、しかし確かに私たちの心に残るだろう。

 

『圓缺 Moon Phases』- Enno Cheng(イーノ・チェン)

1.     真罕得想起來
2.     留佇咱的血內底
3.     歹物仔
4.     未曾準備好
5.     牽我
6.     寬寬仔來到祢的面前
7.     又閣減一工
8.     一寡時間
9.     講袂出嘴的彼个字
10.     圓缺

 

Album produced by 何俊葦 Chunho & 鄭宜農 Enno Cheng 

作詞 Lyricist 鄭宜農 Enno Cheng&李瀧 Lang Lee

作曲 Composer 鄭宜農 Enno Cheng & 何俊葦 Chunho&李瀧 Lang Lee

All songs vocal produced by 何欣穗 ciacia

All songs mixed by 黃文萱 Ziya Huang @ Purring Sound Studio

Mastered by Wayson Scream @マタタProduction

 

プロフィール

鄭宜農 Enno Cheng(イーノ・チェン)
シンガーソングライター、俳優、執筆家。


個人アルバム『海王星 Neptune』『Pluto』『給天王星 Dear Uranus』『水逆 Mercury Retrograde』や、数多くの映画・ドラマ主題歌をリリース。

児童書『風中的小米田 Badu’s Homework』、短編小説集『幹上俱樂部:3D妖獸變形實錄 Fucked Up Club』、エッセイ『孤獨培養皿 The Way I Live in Solitude』を執筆し、現在も音楽や文章の創作を続けながら、台湾各地のライブで活躍中。2023年にはアルバム『水逆 Mercury Retrograde』で第34回ゴールデンメロディーアワード(金曲奨)の「最優秀台湾語アルバム賞」と「最優秀台湾語女性歌手賞」を受賞。また、シングル「金黃色的 Golden」で第14回ゴールデンインディーミュージックアワード(金音創作奨)の「最優秀オルタナティブ・ポップ楽曲賞」を受賞した。
2023年には、瘋戲樂工作室(Studio M)制作のブロードウェイの名作ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ Hedwig and the Angry Inch』台湾版に出演し、男性主人公イツァーク(Yitzhak)を演じて大きな注目を集めた。2024年には、大慕可可(KOKO Entertainment)と山喊商行(Ο Echo.Co Studio)の共同制作による舞台劇『妳歌 Your Song』に挑戦。この作品は鄭自身の家族の記憶からインスピレーションを得たもので、主要キャラクター「張以南」を演じた。
その後、2年間にわたる多様な創作や演技経験を経て、2025年には2枚目の台湾語アルバム『圓缺 Moon Phases』をリリース。本作では、大胆にエレクトロニックサウンドや疾走感のあるリズムアレンジを取り入れ、伝統と現代の革新的な融合を目指す。台湾語ポップミュージックの新たな可能性を切り開き、これまでにない音楽の楽しさを届けている。

 

(この記事は、中国語のプレスリリースを基に、独自に翻訳・再構成し、記事を作成しました。お気づきの点があれば、Xでご連絡ください)

 

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