新人バンド紹介:「Gemini」Caravanity - 越境するJ-ROCKが歌う、社会的な自分ともう一人の青い自分

 

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台湾と日本の間には、それなりの歴史がある。だから、台湾音楽の歌詞の一部として日本語が使われることは珍しくない。とはいえ、DIYで全日本語詞を作り、かつJ-POPの影響で歌うバンドは珍しいし、かなりすごい。

 

観測範囲では、ペトロールズやSpangle call Lilli lineの影響を受け日本語で歌い、ファンベースをコツコツと広げているゲシュタルト乙女に加え、ニューフェイスとして「Caravanity」がいる。ゲシュタルト乙女についてはこれまで何度か言及しているので、今回はCaravanityを紹介する。

 

「Gemini -demo ver.-」Caravanity 
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Caravanityは、2017年結成、2020年に活動をはじめた3人によるJ-ROCKバンド。

 

「邦楽に興味があって日本語の勉強をはじめ、自分も日本語で曲を作り始めました」という台東出身で現在東京在住のギターボーカル、Tomoが作詞、作曲を手掛ける。TomoはBUMP OF CHIKEN、米津玄師をRespectしながらMuseやThe 1975、Two Door Cinema Clubなども守備範囲。そして、凛として時雨を愛聴するギターのJing、台湾インディを聞きつつindigo la EndとHydeも大好きなベーシストJM(ex.「迷幻香菇」→現「樹屋町Tree Neighbor」)は台北在住。


もともとTomoとJMが大学の軽音楽部内で結成された邦楽のコピーバンドで知り合い、「オリジナルがやりたい」と意気投合。そして、JMと昔からの知り合いで、ギターのJingがのちに加入したという経緯で今の形になった。

 

東京と台北にメンバーが分散しているため、普段はオンラインで制作活動が行われる。

 

通常、Tomoがはじめにイントロ、もしくはワンコーラスのデモをGoogle Driveにアップし、イメージを伝えるところから、曲作りが始まる。各々がアイディアを膨らませている間に、一曲分のデモをアップして構成を話し合いつつ、ギターとベースアレンジに取り掛かり、その繰り返しで完成するという。「通話とかじゃなくて全部チャットでやり取りしてるのでめちゃめちゃ時間かかります(笑)」と、Tomoは語る。
 
これまで「Freedom Fighter」(2020年6月)、「レインボーレール」(2020年8月)、そして「Gemini」(2021年3月)の3曲を発表。いずれも2000年代~2010年代の邦楽ロックとボーカロイド・ロックの影響が感じられるラインナップだ。


現時点で最新リリースの「Gemini」は、夏の夕方の香りが漂うさわやかな王道J-ROCK。音楽要素としては、ストリングスを活用したイントロ、少しトリッキーなAメロの落ち感、ギターのリフと掛け合わせるBメロ、抑揚が抑えられたサビ、2サビ前のブリッジなど、邦楽ロックを通ってきた人なら必ず「これ、進研ゼミでやったやつだ…!」と思えるであろう。Base Ball Bearが好きな方には刺さると思う。

 

タイトルの「Gemini」は、日本語で『ふたご座』、初夏の生まれ星座を意味するタイトルが示すように、夏の香りや蒼さを感じることができる。歌詞をよく読むと思春期の自意識のなかで「君」が実態を伴わないようにも思えるが、これについて話を聞いたところ、「Geminiは、社会的な自分と、そんな自分の中の自分の話」とのこと。

 

「社会に適応するために好きなことを好きなだけできなくなって、それでも夢を追いたい自分は心の中のどこかにいます。もう大胆に冒険できない自分と向き合う曲ですね」


デモバージョンでもあることからレコーディング品質には伸びしろを感じるものの、今後新しい要素を取り入れた変化やフルアルバムのリリースに期待感が持てる。「オンラインでの制作という体制なので、できることが結構少ないのですが、アルバムを出したいですね。あとライブがとてつもなくしたいです!」とのこと。越境したJ-ROCKは、これからどう変化していくのだろうか。

 

Information:

Caravanity official website

Facebook:

https://www.facebook.com/caravanity.official

Apple Music:

https://music.apple.com/jp/artist/caravanity/

 

「知人」- Tizzy Bac たくさんの思い出と感情と共に、中年が届ける遺作

 

わざと顔を合わせないことで安心する

故意不看清你的臉 這讓我感到安全

いつか君は僕の元を去るだろう、だから想わずにはいられない

有天你離開我身邊 才不會想念

 

-Tizzy Bac「失速人生」

 

1990年代に、ロック=ギターという既成概念を変革したバンドといえばBen Folds Fiveですが、台湾にもスリーピース・ピアノ・ロックバンドがいます。1999年結成の、Tizzy Bac。


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ベン・フォールズスタイルを継承し、鍵盤を打楽器のように弾くパワフルプレイと、レジーナ・スペクターのような芯のある歌声で、鬱々としたメッセージをクールに発信するチェン・フイティン(陳惠婷)。

 

硬質で音数は多いものの、しっかり土台を支えるドラム、チェンユァン(前源:本名/林老杯)。時にギターのようなディストーションも駆使しながら、ジャズ、ポップス、ロック、クラシカルなど幅広い音楽性に対応するベーシスト、ジャーユー(哲毓)。

 

決して「Give me my money back」と歌ったりはしないであろう、3人が生み出すニュートラルかつ少し冷たいイメージと、爆発力に溢れるライブがTizzy Bacの魅力です。

 

多くのバンドがそうであるように、初期はシンプルに、活動を重ねるにつれシンセサイザーなども多用し、表現の幅を広げてきました。2013年にリリースした5thアルバム「易碎物」(日本語では「壊れ物」の意味)」では、「探索時間之謎」「這是因為我們能感到痛」などに見られるように、ストリングスやオーケストラの音色を豊富に取り入れています。

 

「易碎物」以降、Tizzy Bacはメンバーの関係性の悪化により、バンド活動を休んで距離を置きながら、少しずつ関係性の修復を試みていました。そして2016年、ようやく練習を再開しようとしていた1週間前、ジャーユーが癌であるという宣告を受けます。

 

「哲毓の病気は、私たちの関係性を根本から解決してくれましたが、その結末は私たちが望んだ代償ではありませんでした。病気のメンバーがきっかけで仲直りをするくらいなら、解散した方が良いと思っていたのですが、(起きてしまった以上)どうしようもないことです」

 

そしてジャーユーが2018年に帰らぬ人となるまでの間、6thアルバム「知人」は創られました。

 

「知人」Tizzy Bac
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01 金翅雀
02 我所深愛的人們
03 擱淺的鯨魚
04 Lucy Dreams (Feat. 落日飛車)
05 深海怪物
06 沙漏
07 The River(in the Holiday Season)
08 Ce soir
09 暗黑博物館
10 暴風
11 勿忘我
12 失速人生

 

 

アルバム全体に3人で過ごした最後の日々が宿り、悲しみが深い影を落としています。

 

1曲目『金翅雀』は、TizzyBacが結成初期から得意としてきた3拍子のクラシカル・スタイル。愛に飢え、渇きを感じ、遠くの理想郷を目指してもそう遠くは行けない鳥に人の成長をたとえます。

 

続く『我所深愛的人們』は、王道のピアノ・ロック風バラード。自分が傷ついても深く愛する人たちを守るために尽力する人の気持ちを描き、「泣かないように頑張っても、生き残ろうと頑張っても、時が来たら何ができるのか?」と問います。

 

Sunset Rollercoasterが参加した4曲目『Lucy Dreams』は、起きていても眠っていても、夢の中にいる感覚をレトロかつサイケデリックな世界観でつくります。

 

日本語で『砂時計』を意味する6曲目『沙漏』は、「世の中に魔法の砂時計があったら、時間を止めたり過去に戻ったりして後悔なく過ごせるかもしれない。でも時間は例外なく、愛さえも奪っていく」というメッセージ。このMVはジャーユーの死後間もなく公開され、多くのファンとともに、悲しみを共有しました。

 

そして、Tizzy Bacの決意表明とも取れるのはラストを締めくくる『失速人生』。オルガンによる和声、シンプルなドラムスとベースラインによるミニマムな構成ゆえに説得力が引き立ちます。「君を失い、失速した人生でも、最後の日まで生きていこう」

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失速人生のMVは、喪服を想起させる黒い衣装を身に纏うメンバー達が、黒い車で旅をするロード・ムービー風。3人の旅の結末は、ぜひMVを最後まで見て確認してみてください。

 

アルバム全体に、ジャーユーの存在と喪失が感じられ、多くのコンテキストから成る12曲で構成されるアルバム「知人」。英語タイトルは「Him」と訳されますが、言わずもがなジャーユーのことであり、私達一人ひとりにとっての知人を代入できます。

 

私たちは、愛を渇望し、知っているようで知らないような気がした「知人」のために尽くし、失い、ときに失速をしたとしても、また会える日を夢見て生きていくのでしょう。

 

Tizzy Bacは今も、フイティンとチェンユァン、そしてライブではサポートメンバーを迎え、精力的にバンド活動を続けています。

新譜紹介:「To My Penpal」Yufu - ヴィンテージサウンドと人の弱さがエレガントに交差するお手紙

台湾インディーズ新譜 To My Penpal Yufu

 

60s/70sの音楽を愛し、これまでガレージ・サイケデリック・ロックバンドの「鱷魚迷幻」、およびR&Bロックプロジェクト「YUFU & The Velvet Impressionism」のギターボーカルとして活動してきたYufu(陳郁夫:チェン・ユーフー)が、今回初のソロプロジェクトとして、2021年6月に6曲入りEP「To My Penpal」をリリースしました。

 

To My Penpal アートワーク

 

「To My Penpal」Yufu
1. Claire Awaits (Cassette Version)
2. Our Vibration (Cassette Version)
3. Bad Intentions (Cassette Version)
4. The Walls Are Coming In (Cassette Version)
5. Warm Fuzz (Cassette Version)
6. Bad Intentions (Cassette Alternate Version)

 


現在のように音楽ストリーミングが普及する以前、YUFUはP2Pソフトウェア「FOXY」を通じて、1970年代のUK・USパンク(セックスピストルズ・ラモーンズなど)を通り、1960年代のブリティッシュ・インベイジョンとサイケデリックロックに夢中になったとのことです。

 

そして「鱷魚迷幻」ではガレージ・サイケを、R&Bロックプロジェクト「YUFU & The Velvet Impressionism」では60年代サイケデリック・ブルースにR&B/ファンクリズムが加わるなどしながら一貫して、ヴィンテージサウンドの発信と共有に挑戦してきました。

 

過去のインタビューでは「台湾で僕の創り出したい60sや70sのサウンドを理解してくれるミュージシャンを見つけることは極めて難しい」と語ったYUFUは、今回COVID-19情勢下で人と人とのつながりや想いを改めて整理し、ほぼ一人で音楽づくりに取り組んだとのことです。

 

「To My Penpal」は、感情的なテーマを伴ったアルバムです。困難な時期にある魂の愛と苦しみを核に、人が持つ感情や物理的な相互作用を形成する依存性を、YUFUが愛するモータウンレコードのミュージシャンたちから影響を受けたソウルミュージックでサウンドを創り上げています。

 

1曲目『Claire Awaits』は、バッキングボーカルにAnna Gabrieleを迎え妖しく美しい雰囲気。「このEPの全体のムードを設定する曲が欲しく創りました。当時、70年代のセクシーな音楽、正確には70年代のポルノ音楽ばかりを聞いており、その感受性が高いエロティックなサウンドが、この曲を書くのに影響を与えたと思う。」

 

2曲目の『Our Vibrations』は、私たちを時に生かし、時に狂わせる感情や欲望について優しく歌っています。

 

2バージョンで収録された3曲目と6曲目『Bad Intentions』の制作時は、精神的にかなり落ちた状態にいて、その葛藤がこの曲を作らせるに至ったと言います。「自分にとっては殻をやぶるというか、ただもう"やっちまえ"というような態度の曲」

 

4曲目、『The Walls Are Coming In』については「ここ数年、誰もがタフな状況を経験している。パンデミックによって閉じ込められ、溺れていくような感覚だけではなく、愛することから離れていくような寂しさを表現したくてできた曲」

 

そして本人もお気に入りという5曲目の『Warm Fuzz』は、誰もが少なからず持つ温かい気持ちを求める依存について「いつも私たちの指の間をすり抜けていく温かいファズはどこにあるのでしょうか」と問いかけます。

 

本作の音作りについてYUFUは、長い間録音したいと思っていた沢山の楽器に挑戦、本当に楽しかった、と語ります。「自分の演奏パート以外には、友人で、前にやっていたバンドのメンバーでもあるTootleにドラムを演奏してもらい、友人のAnna Gabrieleに"Claire Awaits"と "Warm Fuzz"のバッキングボーカルを担当してもらった。すごく感謝している」とのこと。

 

音楽だけではなく、1960年代/1970年代のファッション、建築、家具など、ヴィンテージなカルチャーを愛するYUFUが届けるロマンチックなサウンドは、先の見えない情勢の中で少しずつ疲弊しつづける私たちを、内省的かつ優しい世界に誘います。

 

愛と苦しみをエレガントに描いた、「手紙」を受け取りませんか。

 

視聴および音源の購入はこちら。

Bandcamp: https://yufu.bandcamp.com/releases

Spotify:https://open.spotify.com/album/1xRpzbo0oFcaUQAhupMtHj?si=SoBXQgTbSdWWbr8QcYMdew&dl_branch=1

Streetvoice: https://streetvoice.com/yufuchenmusic/

新譜紹介:拍謝少年「向かい風・追い風」(原題:「歹勢好勢」)

向かい風・追い風

 

台湾・高雄出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、Sorry Youth(拍謝少年)の3rdアルバム『Bad Times, Good Times』(歹勢好勢)の日本盤が、8月4日(水)にリリースされました(台湾では4月にリリース)。「向かい風・追い風」として日本市場向けのタイトルがつけられています。直訳でもなく捻りすぎてもなく、良いタイトル。そうゆうとこだよね。

 

本リリースを記念し、台湾のクラフトビールブランド、臺虎精釀(タイフーブリューイング)の日本タップルーム「Taihu Tokyo」は、Sorry Youthとのコラボレーション ビール「ハイピルスナー」( Hai Pilsner | 嗨口味 )発売記念イベントを実施。ちなみに、「嗨口味」は、Sorry Youthの1stアルバム「海口味」とかけたものかと。

 

 

同店は3月にコロナウイルスの影響で閉業していましたが、今回9月3日、4日に本イベントのために特別営業とのこと。(お酒の提供はテイクアウトのみ)。そんな噂を聞きつけたら行くしかない!というわけで、無事ゲットしてきました。感染症対策のため直行直帰だぞ!

 

無事ゲット。

 

拍謝少年

「向かい風・追い風」

(原題:「歹勢好勢」)

収録曲:
1. 君は比類なき僕らが好きさ 你愛咱的無仝款
2. 正義の人を時代が見守る 時代看顧正義的人 (feat. 柯仁堅)
3. 百人百様 百百人生 (feat. 陳惠婷)
4. 夜市をぶらぶら 踅夜市 (feat. 余佩真)
5. 向かい風の中年 歹勢中年
6. 巡行 出巡 (feat. 三牲獻藝)
7. 時よ止まれ 望時間會留
8. 揺るがぬ近い 山盟
9. 世界が静かな時に 佇世界安靜的時
10. 夜市をぶらぶら (Live Session)  踅夜市 (Live Session)*
*日本盤限定ボーナストラック

 

台湾のインディーズバンドのアルバムで、日本向けにローカライズされているものは多くないのです、が、本作には1曲1曲の日本向けのタイトルが入り、また日本向けの解説がしっかり入っている親切仕様。ぜひ、彼らの言葉を直接読んで受け取って欲しいです。

 

Amazonでチェック

 

レーベルは、台北のエージェンシー、Tron Music。Tron Musicは、「Borderless」を掲げ、台北・日本・中国・韓国・タイをつなぐブッキング、PRサービス、ディストロなど幅広く手掛ける音楽事務所のようです。中の人とまだ話したことないから詳細は不明だけど、Rock Recordsとか、Airhead Recordsなどのレーベルとパートナーシップのもと、台湾アーティストの海外流通や海外アーティストの台湾マネジメントをやっているみたい。

 

さて本作は、1stアルバムから変わらない、「台湾っ子の精神的支柱」としての骨太なロックサウンドと哀愁はそのままに、台湾パンクバンドとして1980年代から活躍するLTKコミューンの柯仁堅、ピアノロックバンド Tizzy Bacの陳惠婷、金曲獎を受賞した女性シンガーソングライターの余佩真、伝統音楽の要素を電子音楽に溶け込ませるベテランバンド、三牲獻藝を招き、これまでの拍謝少年を進化させています。

 

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特にTizzy Bacの惠婷が参加する「百人百様(原題:百百人生)」が地味に好きでした。メロディーラインの起伏は少なくなだらかで、いつもTizzy Bacの「起伏」に振り回されているリスナーにとっては逆に新鮮。重めのサウンドを控えめに彩る電子音が独特の味わいをもたらしています。惠婷自身初となる台湾語ボーカルにも注目です。歌詞からは、人生の旬を過ぎ、中年の入り口に立つ主人公が平凡な人生に諦めと甘さを見出しながら、時々後ろ向きに、時々前向きに生きようとする様子が読み取れます。

 

 

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いつものTizzy Bacはこんな感じ。0:30~のような爆発力が持ち味。

 

また、「揺るがぬ近い」の原題:「山盟」は、彼ら自身が主催する音楽祭「山盟海誓音樂祭」にもみられるように、拍謝少年のアイデンティティを表明するキーメッセージと言えるでしょう。イントロから繰り返されるシンプルなピアノのフレーズと磊落としたアレンジは、聞き手を郷愁の暗闇にいざない、故郷と仲間への想いを静かに叫びます。

 

他のアーティストを迎え新しいありさまを表現し、かつ1stから拍謝少年が歌い続けてきた故郷への想いが1つになった3rdアルバム「向かい風・追い風」は、時代の閉塞感のなかで、遠くへ行けなくても、大きなものを求めようとしなくても、先輩や仲間を頼って、自分たちなりの良いものを再構築していこう、ここにあるものと一緒に。そんな態度と願いが詰め込まれているように感じました。

 

みなさんもぜひ。

 

 

【近況報告】2年前から言っていますが、タピオカミルクレコードをちゃんとしたサイト(?)にしたいです。美術館のオウンドメディア風に、記事を見やすく整理して、面白い記事をたくさん出すである。たとえば「LTKコミューンと88balazは実際どっちがやばいやつだったのか」とか、私得でしかないやつ。絶対面白いでしょこれ。笑

「よく訓練された台湾ライター」になるために色々考えてみた話

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どうもです。

 

最近身の回りで話題になっていた「台湾ライター」問題について書いてみます。

 

きっと「台湾への理解がー!」とか、「ここの掘り下げが甘い!」とか、色んなご感想をいただくんだろうなと思ってます。

 

そんな声に育ててもらってきたと思ってるので、沢山ください!とお伝えすると共に、市場の隅っこで台湾を発信してきた側の人間として、発信側の事情に触れつつ、個人的な想いを少し話しておきたいな、と。

 

因みに、「特定の!!誰々がー!!」みたいな話は好きじゃないし、しないつもり。というわけで、どなたも安心して読んでいってくださいー。

 

 

そもそも台湾ライターって何なの?

→台湾をテーマに、メディアで文章を書いて発表している人!

 

ザックリいうと、「台湾について文章を発表して、発表している人の総称」です。テーマは、政治、流行、観光、グルメ、ライフスタイル、音楽とか。

 

台湾をテーマとする書き手の分類

 

専門分野あり

専門分野なし

扱うテーマで生計を立てている

大学の先生

新聞記者

総合ライター

扱うテーマで生計を立てていない

(副業)台湾〇〇ライター

(副業)台湾〇〇ブロガー

総合ブロガー

 

「専門分野のある・なし」×「扱うテーマで生計を立てている・いない」ざっくり分けてみました。アート方面(小説家や詩を書く方々)は除外しています。

 

私の観測範囲では、「台湾ライター」として批判を受けることがあるのは、左上のマスにあてはまらない方以外大体全部。

 

補足1:

一人の人が、上記の表では二つの顔を持つこともある。たとえば新聞記者の方が、「台北B級グルメぶらり食べ歩き日記」をプライベートでつづることもあるだろう。※例え話です!笑

 

補足2:

台湾についてさまざまなテーマを扱う「総合ブロガー」。数年前はブログ一本で生計を立てている方もいたようですが、コロナ情勢下による観光情報へのアクセス減少&グーグルアルゴリズムの変動という外的要因でピボットしている印象。

 

んで、台湾ライター問題ってなに

=書き手が、その成果物に対して批判を受けること。

 

批判の種類は主に3種類ある。

 

(1)テーマに対する批判

「台湾の私の好きな〇〇が取り上げられてない!」「台湾の〇〇な面ばかり取り上げられている!」がコレ。

 

メディア(あるいは企業)から発注されている書き手は、企画会議を経て記事が表に出ているのですが、なぜか末端にいるライターが批判されてしまうという現象です。リスク高いか。

 

この批判は、大抵、読み手側に好きなものや伝えたいことがあって、それが表に出ない…!というフラストレーションからくると思っています。

 

余談だけど、私もかつて、「なんで〇〇が取り上げられていないんじゃ~!」サイドだったので、気持ちがすごくよくわかる。

 

(2)内容の誤りに対する批判

誤った内容の記事が発信され、批判を受けることもある。

極端な例では、「台湾の公用語は台湾語~」とか、公開日時点で既に閉店したお店の情報が発信されてしまっていること。

 

ライター/編集者が、台湾への理解不足による悪意のないやらかし、もしくはファクトチェックが甘いことが原因。

 

(3)情報の浅さに対する批判

浅い情報がメディアの記事として掲載されてしまうことに対する批判。

「浅い」の定義は主観によるもの。「台湾について今知りました!みたいな読み手にはありがたく、台湾を知っている人にとっては意味のない情報」だと私は思っている。

 

浅い記事が表に出てしまう原因は2つある。

 

1つは、「浅い記事で集客できた時代」の影響。今から数年前、Google検索では、浅い記事も特定の要件を満たせば検索上位に上がりやすかった。それらはノウハウとして蓄積され、Web媒体やブロガーは、検索に上がりやすい記事の傾向を、技術的にハックして記事を量産していた。その頃の文化が特にWebでは残っている。

 

2つ目は、誰でもメディアをつくれる時代になったから。具体的には、Wordpressに代表されるCMS×デザイン力で、法人と個人が同じ条件でメディア風のきれいなサイトが作れるようになった。

 

結果、編集体制がしっかりしていない仕組みによってつくられた記事も世に出ることになり、「悪気のないやらかし」的な記事が加速してしまった、というワケです。

 

本来大きく責任やクオリティを問われないはず(フツーにそっとされてていいはず)の個人ブロガーも批判を受けるようになった原因もこのあたりにあるのかな…?と思っております。

 

「台湾ライター」はこれからもなくならない

 

一つちゃんと伝えておきたいのは、台湾ライターはいなくならないし、台湾ライター問題もこれからもなくならない、ということです。コロナで減速しているとはいえ、国際交流は今後も増えていくでしょう。


ただ、書き手に求められる役割は変化していく。

これまでの「台湾ライター」の役割には3つあります。情報発信量の担保、台湾文化への理解醸成、顧客エンゲージメントの創出。
 
で、読み手のリテラシー向上とGoogleアルゴリズムの変化によって、量産役としての台湾ライターの役割はやや下がる。代わりに、顧客エンゲージメントの創出がますます重要になっていく。顧客エンゲージメントを高めるためには、成果物や発信元への信頼度が高いことが重要で、信頼度を高めるためには、台湾文化への理解をしっかり促していく必要がある。

 
今、台湾に興味を持っている人は、台湾の魅力が日本にもっと広まっている環境を多かれ少なかれ願っているでしょう。少なくとも、「今より減っていい」と思っている人は少ないはず。

 

より多くの方が、台湾に興味を持ってもらえる状況を作るには、プレイヤーは1人だけでは成り立たないわけで。こと書き手の世界では、良いプレイヤーの創出と、プレイヤー自身のスキル向上が必要になってくる。

 

台湾への基礎知識、テーマへの理解、書く人としてのスキルの3つを備えた、「よく訓練された台湾ライター」がたくさんいる状況が面白い、と私は思う。

 
そのために今必要なのは、「書き手」と「読み手」の世界が分かれることではなく、歩み寄りかな、って思います。

 

たとえば、読み手からすれば薄っぺらい記事を書いてるように見えるライターも、単に知識不足で本当はとても情報を欲していて、濃い記事を書きたいかもしれない。

 

テーマが偏っているように見えるライターも、他の見せ方を知らないだけかもしれない。
(あとは、表に出ていないだけで別の切り口で企画を検討しているかもしれない)

 

思い通りにならない状況を、個人攻撃に変えるのではなく、一旦受け入れる。で、やりたい人が、負担にならない範囲で想定されるアプローチをとって、ちょっとずつよくしていく。みたいな状況になったら面白いんじゃないですかね?

 

対話と根回しで、なんとかなることが本当はたくさんあるんじゃないか。周りを見ていてそう思います。

 

「よく訓練された台湾ライター」を増やすために

というわけで、台湾にまつわる情報発信で面白い世界をつくっていくには、何かしら価値を生み出す方向性の打ち手が必要で。今考えられることを、よく言われることも含め4つ挙げます。

 

運営元に働きかける

主に、記事に書いてある内容が誤っている場合に有効。編集側、あるいはメディア運営側にとって誤った情報を掲載することは「恥」なので、Webなら即日訂正、紙の場合も何らかの対応を取ってもらえる場合が多い。

 

その結果はライターさんにフィードバックされ、今後に活きるかもしれない。

 

自分で書く

一般的に言われる方法。「自分で書く」。書き手側も、批判するなら自分でやってみればいいのに…と思っている人が多いかもしれない。そして実際に、文章を書くのが好きなら良い方法だと思う。

 

Webメディアの場合、原稿料は5,000円〜30,000円くらい。雑誌だとページ数にもよるがもうちょい高い(はず。)

 

速さを重視する場合には、ブログで書くという手もあるし、有料noteで記事を売るという手もある。拡散力に課題がある場合には、Web広告を1日数百円~出稿できるので、挑戦できる資金が手元にあるならTwitter広告を検討しても良いかもしれない。

 

とはいえ、全員が全員、文字を書くのが得意なわけではないので、最良とは言えない。

 

書く以外の発信方法を検討する


写真、動画、DJ、ラジオなど、書く以外の発信方法ももちろん考えられるであろう。

 

お金になるかは交渉とクオリティ次第だけど、手法やデリバリーの方法はあふれている。一方でそれなりの工数がかかるので、そもそも発信する前に心が折れてしまう場合や、発信する前に内容が陳腐化してしまう可能性もある。

ネタを提供する

意外と盲点だけどこれも結構アリ。クリエイティブな作業が苦手な方にオススメ。

連絡先を公開しているライターさんに、「台湾でこういうことが面白いと思っているので、取材したら面白いですよ。自分はこういう立場なので、取材協力できます。書いてみませんか?」と丁寧に提案して回る。すると、ライターさんが編集部に上げて、取材+記事化するかもしれない。

 

メリットはネタさえ提供して、諸々手配すれば記事をまとめるのはライターさんがやってくれること。デメリットは、自分の思うような記事にならない可能性ももちろんあること。

 

実は、私は本業で広報の仕事をしている(台湾は全く関係ない)。ネタの提供を通して120%自分が満足する記事ができたことは、ほんの一握りだ。他社にポジションを取られたり、理想の切り口にならなかったり…。そんなリスクがあっても良いなら、取り組む価値はあるかもしれない。

 

もし、120%自分の思い通りに記事を作ってほしいなら、広告主になることが必要で、大体数十万円くらいの費用が必要となる。

 

 

補足:SNSでの議論について

 

私は、台湾ライターの成果物について、Twitterで議論したり、指摘したりすることを止めるつもりはない。(人のアカウントはその人のものだ)

 

でも、議論をする際に、紳士的な対応を取れる人、取ろうとしている人、そして器用に思いを伝えられる方はどれほどいるだろうか。私自身、SNSで衝動的に問題提起をして「言ってよかったー!スッキリ!」と思ったことは実はそんなにない。

 

だから、一見遠回りに見えても、自分で作ったり、作れない人はコミュニケーションで解決していく方法が大人の対応かつ平和かな…と思ってしまう。

 

書き手のひとりとして

ここからは自分語りです。私自身については、Tapioca Milk Recordsの管理人あるいはライターとして、台湾のインディーズ音楽について書く人+企画を立てる人、として認知していただいている方が多いと思います。

 

いろんな方にお世話になって発信を続けてきた一方で、台湾インディーズ音楽の情報を新しいやり方で市場に供給してきたことは、誇りに思っている。…そんな自分語りが嫌いな人はここで読むのをやめましょうw

 

台湾ミュージックについて書き始めたのは3年前。台湾の某バンドにはまったときに、日本語で読める情報が全くなかったことに対し、小さな疑問と怒りを覚えました。「こんなにいいバンドの情報がないっておかしくない?みんな(=仮想敵)なにやってるの!!」と思っていた。

 

で、情報を発信していくうちに、仮想敵なんていない、と気づいた。

 

欲しい情報や発信があって当たり前、というのはお花畑的な発想だった。

 

自分が抱えていたリスナーとしてのペイン、音楽レーベルの抱えるペイン、台湾のマーケティングサイドが抱えるペインなどがちょっとずつ見えてきて、そこに一石投じられないか、マーケットに微力でも貢献できないか、との思いで、少しずつ発信をしてきました。

 

音楽業界やメディア業界に入ることも、台湾企業に入ることもなく。「誰にも忖度しなくていいからできること」をテーマに、自分の頭で考えて色々やってきたことが、Tapioca Milk Recordsでのアウトプットです。

 

よく訓練された発信者を目指して

 

私は台湾インディーズ音楽のTSUTAYAになりたい、というマインドで活動しています。

 

なので、「中村さんの記事を読んで新しいバンドを知れました!台湾面白いですね!」とか、「新しい世界が開けました!」というようなご感想を言ってもらえた時にはやっぱり、やりがいを感じます。

 

あとはタピレコはAmazonアフィリエイトに加入しているから、私の発信経由でCDや音源が売れたことが確認出来たらすごい嬉しいなと思います。

 

あとは、この考え方に共感してくれた法人の方が発注してくれたり、アーティストさんたちから感謝されたりしたときとか。

 

活動していく中で、ミスをしたり上手く伝えられなかったりすることも当然あり。慌てて直したり、もっと深堀できたな…と思うこともある。たくさんある。

 

だけどその度に、音楽が好きな人達、そして台湾のことが好きな人たちに支えられてここまできました。

 

そんなわけで、本業の傍ら、これからもよく訓練された発信者であれたら、と思うので、負担にならない範囲で、一緒にいてくださいませ。

 

それではまた。

 

台湾ライターのひとりとして。中村より。

 

すかさずCM!台湾インディーズ音楽 Playlist

暑くて外に出れない!そんな時はおうちで涼みましょう。アイスのお供に、台湾インディーズ音楽が200曲弱入ったプレイリストをどうぞ。

 

音楽が好きな皆さんと一緒につくりました。

 

カフェレポート:「美麗(メイリー)」@下高井戸

 

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カフェ「美麗」とは

 

京王線下高井戸駅から徒歩数分。カフェ「美麗」は、台湾コーヒーを中心に、店主小山さんのセンスが存分に生かされ洗練された台湾カフェです。

 

日本ではまだまだ珍しい台湾コーヒーが数種類常備されているほか、台湾茶や台湾グルメを、開放感のある店内で楽しむことができます。

 

 

実はずっとファンでして。

私は、陰ながら美麗 MEILIさんを応援している者のひとりです。

 

出会いは、2019年3月に池袋パルコで行われていた世界のコーヒー飲み比べイベント。ここに「台湾枠」のコーヒーを卸していたのが、MEILI COFFEEです。はじめて出会った台湾コーヒーの、優しく新しい味わいに感激したのを覚えています!

  

このころはまだ実店舗ではなく、イベント中心に精力的に出店されていたと思います。台湾関係のイベントに行くと必ずMEILI COFFEEさんがブースを出していらした記憶が……。

 

 

希少な台湾産農産物を日本で流通させる、という強い思いを持っている店主の小山さんですが、直接お話すると本当にフレンドリーに接してくださって。加えて、「台湾のッッッ!!!」みたいな感じではなく、おいしいものをお客さまを提供するため、いつも笑顔で試行錯誤をしている姿勢に、すっかりファンに(笑)

 

 

 

そんな美麗さんが実店舗をオープンするためのクラウドファンディングを実施した際には、厚かましくもリターンを作っていただきました(笑)

 

↑中村が安定的に厚かましい様子w 

 

というわけで、オープンしてすぐに駆け付けたかったのですが、コロナ情勢下だったり、アクセスの都合だったりで1年半も経ってしまい…!やっと訪問できたのでレポートしていきます!

 

訪問レポ  

京王線下高井戸駅を降りて徒歩2分くらい。道はわかりやすいため、迷わないと思います。方向音痴でも安心!

 

木を基調としたメイリー外観

外観はこんな感じ。写真を撮り忘れたのでMACARONIから引用させていただきました。

 

店内奥のカウンターには、「美麗」と大きく描かれており印象強め。白い壁と木のぬくもりが特徴的な店内には、どこか洗練された雰囲気が宿っています。

 

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「ありがたいことに最近は平日でも、休日並みの混雑ぶりです。多くのお客様が訪れてくれています」と小山さん。

 

この日は直前に降った雹まじりの大雨の影響か、すんなり入れて、ラッキーでした(笑)

 

個人的な事情で恐縮ですが、この日は休日出勤後でおなかがぺこぺこでして…!!

 

・胡椒餅

・ルーロージェノベーゼ

・鉄観音ラテアイス を注文しました。食べすぎか~(笑)

 

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胡椒餅!生地はサクサクしてるのにしっとりしてておいしいです!あと本場に比べてボロボロになりにくいような気がします。おしゃれワンピースで行っても安心です。

 

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ルーロージェノベーゼ(スープ付き)。

 

意外すぎる組み合わせでメニュー二度見しました(笑)が、もちもちの麺と優しいルーロー、そしてジェノベーゼソースの複雑な味わいでおいしい。

 

「ルーローは万能食品、というか万能調味料だと思います」と小山さんらしい発言も。

 

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鉄観音ラテ。ミルクの中にちゃんと鉄観音の味わいがあっておいしい…。

ちゃんと甘いんだけど甘すぎなくておいしかったんですけど、小山さん何か特殊技使ってます…?(ここで聞くっていう)

 

ちなみにイートインだけではなく、胡椒餅などテイクアウトできるメニューもあります。またコーヒー豆をお持ち帰りして、自宅で楽しむことも可能です。

 
 
 
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もう既にTwitterでバズっていたりたくさんメディアで紹介されているので、ご存じの方も多いかもしれませんが…!まだの方はぜひ、訪問してみてくださいませ。

 

Information

「美麗 MEILI」

住所:東京都世田谷区赤堤4-45-17 下高井戸駅より徒歩2分

休日:不定休、休日情報はSNSでチェック

Instagram:https://www.instagram.com/meilicoffee/

Twitter:MEILI (@CoffeeMeili) | Twitter

 

台湾音楽小説レビュー:『尋找你 Longing』/ Lily Jones

この記事は「イリ―カオルー オンライントーク&弾き語りイベント」に向けたカウントダウンブログの2日目です。1日目はこちら。

 

前回、「7月9日開催!イリー・カオルーのオンライン弾き語りライブがあるよー!」では、イベントの概要とイリ―・カオルーのプロフィールについて簡単に紹介しました。

 

今回は、彼女の3rdアルバム『尋找你 Longing』のインスピレーションの元になった同名の短編小説集を紹介します。

 

なお、音楽アルバムと小説のセットは、こちらの公式ホームページから購入できます。

以莉高露 Ilid Kaolo

 

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(出典元:https://www.facebook.com/ilidkaolo/

 

「音楽が記憶をたぐりよせる。

 ほら、わたしたち実はあのとき、あの場所で出会ってた」

 

そんなキャッチコピーを掲げる本作、『尋找你 Longing』は、Lily Jones氏による64Pの短編小説集です。

 

収録作品と各テーマは、

  1. 本に挟まれた一通の手紙:青春の衝動に突き動かされて書いた一通の手紙、そして喪失
  2. 女人島:アミ族に伝承される神話
  3. 十七歳のあなた:日本統治時代、第二次世界大戦の中で船員として南太平洋に沈んだ、実在した台湾の青年

 

小説集の著者で、イリー・カオルーの親友のような存在というLily Jones氏は、

「探索者である私はイリ―の潜在意識の下にあるイメージ領域を開き、タイムマシンで太古の人類が生きた時代まで遡って、過ぎ去りし美しい生活を観てきました」
(「尋找你」日本語版より引用)

 

と語ります。

 

「探索者である私は~」ってなんかもう既にその関係性がうらやましい感じがするんですけど、大丈夫ですかね?

 

とにかく、そんな関係性から生まれた3つの作品の世界は、栖木ひかりさんによる日本語翻訳を通し、触れることができます。

 

 

www.youtube.com

 

Lily Jonesが描く「人の存在感」は、少ない言葉でも、ふわっと情景が思い浮かぶため、読んですぐに心がどこかに行ってしまいそうになりました。

 

特に1作目、「本に挟まれた一通の手紙」では、とある(おそらく)少数民族出身の女の子の視点を軸に物語が展開しますが、同じ「彼」を取り巻く世界の描写の中でも、太陽のような光と、海の中の珊瑚の世界を通した美しさと、会社での現実的、そして夢の世界の中での存在感が少ない言葉で、でもそれぞれ違って書かれていて、表現の幅を感じました。

 

人は現実を生きて大人になっていくのに、たった一人特別な存在と出会ってしまうことで、最初に出会ったときの感覚がバグのように何回も再生され、そのたびに特別になっていくのに決して「現実」を分かち合うことは出来ない人もいる、そしてそれがすべて自分の衝動の中にあるのかもしれないという諦念を、「本に挟まれた一通の手紙」を通して体験できました。

 

2作目、「女人島」は少し不思議で、心に沁みました。 アミ族の神話が基になっていて、未知の世界へ漕ぎ出す様子が描かれているという本作は、ファンタジーな雰囲気かと思って読み進めてみれば、太古の世界に生きる女性たちの、神秘的な雰囲気を纏いながら、少しだけ風変わりに感じる日常が書かれている作品でした。物語の終わり方は力強く希望を感じさせるもので、かといって男性的な筋肉質なものではなく、どこまでも女性が本来持つやさしさが宿った作品でした。

 

「17歳のあなた」は、実話を基にして書かれたもので、日本統治時代を生き、戦争の中で船員として最期を迎えた台湾人青年の半生と最期について、いまを生きる一人の女の子が探索する物語。

 

おそらく1980年代、戒厳令が解かれる直前に青春時代を過ごした彼女は、街中や学校で語られる歴史、ひいては自らのルーツに少し違和感を持ちながら、ふとしたきっかけで聞いた祖母の話を手掛かりに、大叔父のルーツを、日常の中で少しずつ辿っていきます。日本についての描写はやはり痛みと共に受け止めたけれど、現実的かつ優しい語り口で、気分は沈まずに世界観に入ることができました。山鬼山丸、ググっちゃったもん。

 

 

3作品とも形を変えて、「海」が描かれていて、それぞれの美しさがあると思います。コロナ禍が日常になるなかで、少しだけ異世界に意識を旅行させたくなったら、ぜひ読んでみてくださいね。

 

というわけで今日はここまで。明日は…明日は何を書こう。仕事をしながら考えることにします。

 

それではまた。

 

本作品にまつわるトーク、ライブイベントはこちらから無料で申し込みができます。

 

『台湾金曲奨受賞のIlid Kaoloによる最新アルバム制作秘話トーク&弾き語りライブ』

日時:2021年7月9日(金)20:00~21:00

場所:Zoomウェビナー 無料参加

申し込みURL(無料):https://hibikiculture-ilidkaolo0709.peatix.com/

7月9日開催!イリー・カオルーのオンライン弾き語りライブがあるよー!

 

こんにちは、タピレコの中の人です!

 

あのー、すみません、明後日なんですけど、7月9日(金)の夜20時から、台湾原住民族にルーツを持つシンガーソングライター、イリ―・カオルー(Illid Kaolo/以莉高露)のオンライントーク&弾き語りライブがあるって話、ご存じだったりします…?

 

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 『台湾金曲奨受賞のIlid Kaoloによる最新アルバム制作秘話トーク&弾き語りライブ』

日時:2021年7月9日(金)20:00~21:00

場所:Zoomウェビナー 無料参加

申し込みURL(無料):https://hibikiculture-ilidkaolo0709.peatix.com/

 

イリー・カオルーは台湾原住民族、アミ族にルーツを持つ女性シンガーソングライターです。現在台湾台東に住んでいる彼女がこのたび、クラウドファンディングによりニューアルバム『尋找你 Longing』をリリース。彼女にとって3作目のアルバムとなる本作では、初の試みとなる音楽による短編小説集に挑戦。

 

この短編集では、「記憶」からひろがる世界をテーマに短い小説を先にいくつも書き、そのなかに浮かび上がった歌詞をもとに曲を制作したとのこと。テーマは、「太平洋戦争末期に日本軍の輸送船に乗り、グアム島の東南に位置するチュークに沈んだ実在の台湾人男性」、「アミ族の神話『女人島』」、「出せなかった一通の手紙」…など。

 

そしてこのたび、7月9日に行われるオンラインイベントでは、制作秘話トーク&弾き語りライブを行うとのことです。うん、聞きたい。特に短編小説についてとか、結構聞きたい。

 

本イベントには、イリー・カオルーご本人のほか、アルバムプロデューサーのチェン・グァンユーさん、4曲のギター、編曲を手掛けた小池龍平さん、音楽評論家の関谷元子さん、そして小説の翻訳を手掛けた⽂筆家、栖来ひかりさんが登場。いや~~メンツが強めですなぁ。

 

なお、この様子は、誠品生活日本橋FORUMと、ZOOMウェビナーで観覧できるとのことです。ちなみに誠品生活は満席です。

 

実は本件、少し前から告知されてたいたようなのですが、ちょっとその…個人的に仕事が激忙しく…^^;、マネージャーさんからFacebookあてにご連絡を頂いて知りました。なんなら3回くらい未読スルーしてしまった…申し訳ない…!

 

で、やりとりさせていただくなかで、微力ながらイベントの告知を盛り上げにご協力できれば…!と思い記事を書いている次第です。

 

とはいえ!タピレコの読者さん、イベント情報だけ載せても満足してもらえないだろうなあ、挑戦的なことがしたいなー、

 

というわけで今日からイベント当日までの3日間、「カウントダウンブログ」として、イリーカオルーさんについて何か書きたいと思います!!

 

今思いついたので、企画倒れになる可能性も…(笑)そうならないように、Twitterで応援いただけますと幸いです!

 

本日、1日目のテーマは、「イリ―・カオルーについて」。ご本人のプロフィールや活動歴を簡単に紹介できましたらと。

 

あと今仕事前にめちゃくちゃ急いで記事書いているので、微妙に誤字とかあったらすいません!Twitterで優しく教えてください!

 

www.youtube.com

 

イリー・カオルー(Illid Kaolo/以莉高露)は、幼少期をアミ族の集落で過ごし、台湾原住民族文化にルーツを持つシンガーソングライターです。7歳に台北へ移住したあと、2011年以降宜蘭での生活を経て、現在は台東へ。台東の美しい海に囲まれ、農業と子育て、そして音楽活動を軸に生活を営んでいるそう。

 1人以上、アウターウェア、海の白黒画像のようです

(出典元:https://www.facebook.com/ilidkaolo/

 

BIGROMANTIC RECORDSのインタビューによると、台湾原住民族の舞踏集団「原舞者」に所属していた20歳ごろから歌をはじめたとのこと。

 

音楽的な活動歴&表彰歴をざっくりまとめると、

 

  • 2011年に1stアルバム『軽快的生活 My Carefree Life』を発表。金曲獎の「最優秀新人賞」「原住民歌手最優秀賞」「原住民語アルバム最優秀賞」を受賞。
  • 2015年、2ndアルバム『美好時刻 A Beautiful Moment』を発表
  • 2017年にFUJI ROCK FESTIVAL出演、畠山美由紀と共演
  • 2018年、元ちとせをゲストに迎えた公演を実施
  • 2019年、代官山TSUTAYAで行われた「平成台湾100アルバム展」に、台湾音楽の歴史に貢献したアルバムとして『美好時刻 A Beautiful Moment』が選出
  • 2020年、「ミュージックマガジン」特集、台湾インディの100枚 ※に『軽快的生活 My Carefree Life』選出 ※台湾音楽の有識者で選出、日本人の方がディスクレビューを書いた企画

というわけで実力はおすみつきです。

 

台湾アミ族の生活をルーツに、降りてきたインスピレーションを存分に生かして書かれた楽曲は独特のリズム感を持ち、聞き手の心を癒します。

 

というわけでこのたびリリースされた3rdアルバム『尋找你 Longing』も、そのパッケージや短編小説に、言葉とリズムの魅力が活かされています。

 

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(サンプル盤を頂いてしまいましたッッッ…!!!)

 

明日は、この短編小説を読んだ感想をお伝えし、イリー・カオルーの世界に一歩踏み込んでみたいと思います。

 

それではまた!今日も一日がんばりましょ。

 

寄稿レポ:Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイに寄稿致しました!

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アフターコロナを見据えた、音楽活動の海外展開の土壌を作るプロジェクトが爆誕!すご!

どうも中の人です!このたび、5月7日にSKIYAKI社(様)がオープンしたWebサイト「Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイ」に寄稿致しましたので報告&色々しゃべりまーす!

 

記事:Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイ のはじまりに寄せて

our-favorite-city.bitfan.id

 

Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイとは?

「アフターコロナ」を見据え、東南アジアを中心とした音楽活動の海外展開の土壌を作ることを目的としたプロジェクト。日本と台湾のアーティストをピックアップし、両国のウェブメディアやYouTubeを通して、日本の新しい音楽シーンや台湾ニューウェーブを紹介する。活動内容は、台湾在住日本人YouTuberさゆの「SAYULOG さゆログ」、台湾の音楽情報サイト「Blow 吹音楽」、海外向け台湾音楽紹介メディア「Taiwan Beats」などで展開予定。約1年間にわたって交流を継続し、コロナ禍が明けた時、両国でのコラボイベント開催に繋げることを検討しているとのこと。

 引用元:日本×台湾のオンライン音楽交流企画 第1弾はAnalogfishと椅子樂團の対談 - 音楽ニュース : CINRA.NET

 

というわけで、いろいろな流れが止まる中で、これまでにないニュープロジェクトを立ち上げてしまうぶっとび感、大変クールです。

 

プロジェクトのコンセプトに共感するとともに、お声がけいただきましたことを大変光栄に思っております!

 

今回の寄稿を記念して、コラボプレイリストも展開致しました。

 

このプレイリストは、これまでタピレコの読者さんと育ててきた台湾インディーカオスマップ プレイリストをアレンジし、Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイに関わるメンバーでセレクトしたアーティストを、上部にフィーチャーしたものです。

なんかすごいおしゃれな選曲になってる!いいねえいいねえ!

 

また、Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイにあるコンテンツには

 

YouTuberのSAYULOGさんによる「Analogfish×椅子樂團(The Chairs) 日台スペシャル対談 【前編】」。

日本と台湾のアーティストによる対談シリーズ。これはありそうでなかったぞ…???

www.youtube.com

 

そして、

 

エッセイストの柳沢小実さんによる「『美味しい』をつくる調味料」として、定番の台湾土産である台湾の調味料を紹介するコラムなど

our-favorite-city.bitfan.id

 

 

今後も、音楽/音楽以外に関するコンテンツをバシバシ展開していくとの情報をキャッチしております!

 

Twitterをフォローして更新情報をゲットすると良いと思われます。

 

twitter.com

 

動くエスカレーターのような記事がきっと合う

今回の寄稿では、台湾インディーズ入門編として、「台湾のインディーズ文化の歴史」「トレンド」「原住民音楽とインディーズ音楽の融合」という3つの雑学をお伝えしました。

 

雑学的なテーマを選んだ理由は、「動くエスカレーターのような記事が良いであろう」と思ったからです。

 

というのも、私がこれまで制作した記事は、「ひらめきに基づく自由な企画」か「じっくりと1つのテーマに取り組む企画」の2種類でした。

 

ざっくりいうと、タピレコではひらめきベース、寄稿記事ではじっくりベースで記事をつくってきました。

いずれにせよ自由にやらせていただいておりますこと、本当に感謝しております…!!読者様投稿とか、みんな本当にありがとう。

 

ただ、今回、「Our Favorite City ニッポン×タイワンオンガクカクメイ」の企画書をSKIYAKI社様から共有いただいた際、これまでとは少し方向性を変えた方がよいぞと感じました。

 

というのも、これまで音楽に関わる国内上場企業が、「台湾×日本」、しかもインディーズ音楽メインで、レーベルにとらわれない情報サービスを展開するプロジェクトには前例がなく、前例がないものを作っていくためには、前例のない記事をお渡しした方が良いと思ったからです。

 

今回のプロジェクトのテーマのキーワードは2つあって、「アフターコロナ」そして「海外展開」です。

そもそもコロナ禍では、行動が制限され、家にいる時間が長くなります。家にいる時間の過ごし方はさまざまですが、「好きなことを勉強する」という方法もあります。

アフターコロナに向けて、今のうちに台湾、台湾音楽についての雑学を身に着けておくことは、海外展開の役に必ず立つ、と感じました。

 

 

検討した結果、

・ひらめきベースとじっくりベースの中間、ライトに読めながらも雑学として楽しく役に立つものが良いであろう

・それはきっと、流し読みしていてもなんとなく目的地に連れて行ってくれる、「動くエスカレーター」のようなものであろう

 

という結論になりました次第です。

 

前向きな取り組み、いいね100

 というわけで、素敵な取り組みに混ぜていただき本当にありがたく思う次第です。

 

これからどんどん伸びていくサービスだと思うので、今からぜひチェックしておいてくださいませ!

 

our-favorite-city.bitfan.id

 

ではではぁ、再見ー!

 

「台湾の音楽以前に台湾の文化が日本の音楽/メディア業界に全然浸透しない問題」をそろそろ考える



どうもタピレコの中の人です。

 

今日は「台湾の音楽以前に台湾の文化が全然日本の音楽/メディア業界に浸透しない問題」について、私の考えをお伝えしますね。

 

 

日本で発信される台湾の音楽情報が、令和の今もバグり続けている問題。

「日本で発信される台湾の音楽情報」は、基本的に年数回のバグを伴った状態で発信されます。

バグにはいくつか種類があって、

 

  1. 一般人が間違った情報をSNSやブログで語ってしまい、それをがなんとなく広まってしまう
  2. プロフェッショナル(それでご飯食べてる人)が間違った情報を公式情報として流してしまう
  3. 台湾から発信される日本語の記事がいまいち

 

ざっくりこの3パターン。

大きな問題になりがちなのは2ですね。

 

最近では、JJ LINとアン・マリー(Anne-Marie)のコラボ曲「Bedroom/ベッドルーム」の情報公開で、プレスキットの冒頭が超やらかしていたことで、プチ炎上を招いていました。

 

pointed.jp

 

最も偉大なマンドポップ(台湾語・原住民語ポップスの総称)アーティストの一人であるJJ Linと、

マンドポップは標準北京語で歌われるポップスの総称であって、台湾語、原住民語ポップスとは別のものですね。

 

かといって、このPointedというサイトが悪なのかというとそうでもなくて。元をたどると、リリース元のワーナーによるプレスリリースが間違えており、それを受けたメディアも誤った情報を配信していた、という状況のようです。

 

ちなみに、音楽メディアに載る記事は2つあります。

(1)プレスリリースをもとにした情報。

(2)独自に取材、執筆した情報。

 

(1)の場合、裏取りが行われない場合もあります。特に人手不足の音楽メディアはそう。(基本的にリリース情報以上の情報は載せない)

なので一定仕方がないのですよ……。

 

今回に限った話じゃない

いったんJJ LINのケースを取り上げましたが、こうした問題は、いまにはじまった問題ではありません。

たとえば、

 

2018年 CINRA 落日飛車「アジアンオリエンテッドロック問題」

 

これは2018年に発行された紙媒体の一部です。おそらく台湾政府系のイベント会社かメディアからCINRAに発注されたもので、10Pほどの小冊子(フリーペーパー)でした。

落日飛車の紹介ページで、

 

彼らの音楽性はAOR(アジアン・オリエンテッド・ロック)と呼ばれ…

ここ、アダルト・オリエンテッド・ロックなのでもはや台湾以前のミスなのですが、校正されないまま発行されてます。台湾だからアジアンになったのか…?

 

2018年 しゅうけつりん問題

 

某テレビ番組で、中華圏のスーパースター周杰倫(ジェイチョウ)と「七里香」が紹介された…のですが、「中国の福山雅治」だったり、名前のルビが「しゅうけつりん」だったり、突っ込みどころ満載だとして、派手に炎上した事件。

 

qianchong.hatenablog.com

 

ちなみに当時、本件についてジェイの事務所にインタビューを申し込みましたが断られました。(取れていたら私は台湾音楽マーケットで出世していたかもしれませんw)

 

まー、全体的に、七里香大好きだからちょっと悲しかったぞ。

 

上記3ケースをお伝えしましたが、掘っていくとだんだん悲しくなっていくから一旦ここで。

 

何が原因なのか

で、これらの根本を探っていくと、2つの原因があると思っています。

それは

 

音楽メディア・レーベルの担当者へ教育がされていないこと

音楽メディア・レーベルに熱意の高い人材が不足していること

 

一般的に、台湾音楽関連のプロモーションには2つの段階があります。

(1)プロモーションに必要な情報がきちんと整理されている段階

(2)その情報が熱意をもって最大限展開されている段階

 

台湾の音楽を広めようとする場合、まずは(1)がポイントとなります。

 

そもそも、台湾のポップスを扱う場合には、中国語の成り立ちに対する知識が必要です。とはいえ難しく考える必要はありません。

 

「中国語の標準語は北京語で、文字の形式は簡体字と繁体字で、中国は簡体字、台湾/香港では繁体字。台湾のポップスは基本的に、標準北京語をベースにした台湾華語で歌われていて、歌詞は繁体字だよ。ちなみに台湾語は方言で、台湾華語とは別の言語だから気を付けようね」というレベルで良いです。

 

この教育が施されていないのは、偉い人に教育する気がないからです。そしてそれは、台湾の音楽が日本で収益性が低いことが原因です。

 

教育がされていない場合、自力でググるなり調べるしかないのですが、それは担当者の熱意ドリブンになります。

 

たとえば冒頭でお伝えしたJJ LIN案件では、「マンドポップ」が何かっていうのはちょっとググればわかる話なんですよね、私も記事書いてるし。

 

ただ、本国からリリース原文がデリバリーされるのが遅い場合、ファクトチェックがされないままリリースがされてしまう…という事象がいたるところで起きています。

  

レーベルのPR担当者って結局サラリーマンなので、スキルの高い人材もいればスキルの低い人材もいる。スキルの高い人材が、ミスすることだってある。

 

どういう形であれ、不幸な露出というのはそうやって生まれます。

 

※ちなみに、台湾に愛情を持って正確な情報の発信に努められている音楽関係者の方もいます。ただ、必ずしも大手レーベルに在籍しているとは限りませんし、リソース不足の場合もあります。こうした場合、情報を発信したとしても影響が限定的です。

 

ちなみに(1)(2)を何とかするためには、K-POPのように本国からリソースを投入してもらうのが有効なのですが、中途半端にやるとCINRA事件のようになるので、やり方には工夫が必要です。

 

 

私が危惧していること

 

こうした流れの中で、私が一番リスクだと思っているのは、間違った情報が流れてしまうのはもちろんですが、メディア/レーベルがやる気をなくしてしまうことです。

 

メディア、レーベルにとって、台湾の音楽コンテンツは、収益性が低いものです。良い事業に育てていくためには、担当者のモチベーションで実績を上げ、より大きな資本が投入されることが重要です。

 

しかし、ミスに対しファンがあまりにも表立って糾弾しすぎると、「台湾音楽のファンダムやばいから触れないでおこう…」という判断が下されることもあるかと思います。

 

先方も仕事でサラリーマンで、上司は部下を守る決断をしなければいけません。収益性が高いコンテンツを扱うのであればともかく、収益性が低いもので、ファンベースとトラブルが起きて面倒ごとの予感を察知した場合には「さくっと手を引く」、という判断を私ならします。

 

本件とは少し話がそれますが、KKBOXで、2019年に日本で行われた音楽イベントについて、台湾の方が書かれた日本語の記事が掲載されました。

 

その際Twitterでは、日本語が稚拙だとして、古株の方を中心に大バッシングが起きていました。以来KKBOXでは、台湾の方による日本語の記事が掲載されていません。

 

その古株の方と私は直接かかわりはないのですが、台湾の音楽業界とつながりがあるようでした。

 

表立って叩かなければ、裏で手を回せば、自分の仕事にもつながったかもしれない。もっと発信が増えていたかもしれない。

 

この責任はだれがとるんだろうね。

 

私個人的にも、本業の傍ら仕事として台湾の音楽に関わることもあります。しかし、一部のアーティストについては「頼まれても書かない」と決めています。だって実際にファンと絡むなかで嫌な思いをしてきたし、嫌な思いしたくないもん。音楽は好きだけどね。

 

じゃあなんでお前やらないの?

ここまでお読みになって、私のことをある程度知っている方は、「一定知識があって影響力も少しはありそうな中村が変えていけばいいじゃん」と思われるかもしれません。

 

でも、私は、本業(IT/Webの仕事)が好きで、様々な条件を考えた結果、今後15年くらいはIT業界にいつづけたいと思っているのです。

 

だから、レーベルに就職するとか、メディアを本業にする、みたいなのは考えておりません。

 

ただ、状況を変えようとしていないわけではありません。

私は台湾の音楽を広めようとすることで、自分の人生を開いてきました。今私が持ち味としている行動力とアイディアは、台湾と関わる中で、培ってきたものです。

 

だから、少しずつ恩を返していきたい、と思っています。

 

具体的には近々、日本の音楽/メディアにおけるリテラシーについて、台湾の人に話ができるかも…かもです…今対話の機会を設けようと頑張ってます…

 

前向きな改善アイディアがある方は、私のTwitterまでご連絡をください

 

それではまた。